御話紡－短編集－
「今日が晴れて良かった。これ以上天気が良くならない日が続いちゃうと桜だって咲き方を忘れちゃうわ」

枝の上で厘がクスクスと笑うと皓もそうだね、と一緒に笑う。

最近は満月の日になると決まって天気が悪くなり、なかなか会う時間がとれないでいた。

「そうなると、月だって輝き方を忘れてしまうかもしれないね」

「それはどうかしら？だって、月の光は……桜のためだけにある訳じゃないでしょう？」

笑うことをやめた厘の表情が少しだけ陰る。

空を仰いだその瞳が見つめているのは、夜空に輝く満ちた月。

東の空にあったはずのそれは、いつの間にか真上まで移動していた。

まぶしいくらいに輝く月を目を細めて見続けていた厘がおもむろに皓の方へ向き直る。

「……でも、だからこそ桜は咲くのよ。空の上に満ちた月がある時、自分を見つけてもらおうと枝いっぱいに花を付けて」

厘の細く白い手が、そっと、しかし力強く皓の手を握りしめる。

「月だって……それが嬉しかったんだ」

ポツリと皓が呟く。

すると厘が、え……？と聞き返す。
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