御話紡-短編集-
桜の上で皓は一人空を見上げる。

すっかり花を散らせてしまった桜の枝の合間から色の変わる空が見える。

もうすぐ夜明けだ。

桜の幹に体を預け、頬をそっとなでる。

「俺も大好きだよ。厘」

そう言って、桜の幹にそっと口づけた。

それと同時に、皓も姿を消していた。


ーー
月に恋した桜がいた。

桜は、己の姿を見つけてもらおうと、満月の日にしか花を付けなくなった。

それを見つけた月も桜に恋をした。

自分がありのままの姿でいられる満月の時だけ、桜のもとを訪れる。

そうして始まった逢瀬。

互いの名を知り、好きなものを知り、愛を語った。

それがどうなるわけではなかったが、互いに出会ったことを後悔する気はなかった。

月が満ちたときだけ逢える恋人。

互いを大切に思いながら、再び長い時を待ち続ける。

ほんの少し語り合い、愛を確かめるために……
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