BG様の一途な愛情
 意を決して紘太の方を向くと、目がしっかりと合う。彼の目に捕らえられ、体の奥がキュンと震え上がった。こんなふうにじっと見つめ合うのは三年ぶりで、緊張から心拍数が上がっていくのを感じる。

「やっとこっちを見てくれたね」
「み、見てましたよ、ずっと」

 プイッと顔を背けることに成功したと思ったら、
「あっ、また目を逸らした!」
と、紘太の両手に顔を挟まれて、彼の方に向けられてしまう。

「あはは! 麻里亜ちゃんの顔、昔と変わらないなぁ」
「そんなわけないでしょ⁈ 三年しか経ってないし……私だってもう子供じゃないんだから……!」

 そう口にした途端、麻里亜は慌てて両手で口を押さえた。しかし紘太は満足そうにニンマリと笑顔を浮かべた。

「あぁ、やっと昔の麻里亜ちゃんが戻ってきた」
「それは……」
「はいはい、もう手遅れ。俺は患者である前に、麻里亜ちゃんの友だちなんだからさ。今までみたいに話してよ」

 お互いに大人になって、もうあの頃の関係は戻ってこないと思っていた。互いに別の道を歩き、父親と彼の父親との友情だけが残る。それが時間の流れだと思っていたのに、一瞬で二人の時間が引き戻されたのだ。

「……他の人がいる前では、やっぱり仕事中だし、馴れ馴れしいのは好きじゃないというか……」
「じゃあ二人きりの時は、普段の麻里亜ちゃんに戻ってくれるの?」

 紘太はまっすぐに麻里亜を見つめた。その目は力強くて、何よりも頼りになる、信頼できる光を帯びていた。

 麻里亜は高鳴る胸をギュッと押さえ、小さく頷いた。

「そういえば、早く退院したいって先生に言ったんでしょ? どうしてそんなに早く退院したいの?」
「んー……今回の事故は自分の不注意だし、あまり迷惑をかけたくないんだ」

 麻里亜はハッとした。自分が退屈だからとかそういう理由ではなく、真剣に仕事に取り組んでいる大人の男性なのだとということを知り、申し訳ない気持ちになる。

 初めは紘太にちゃんと休むようにいうつもりだったが、彼の気持ちもよくわかる。だがそれで自分自身を(ないがし)ろにはしてほしくないとも思った。
< 11 / 36 >

この作品をシェア

pagetop