BG様の一途な愛情
「そっか……紘太くん、お仕事頑張ってたもんね。でも無理はしないで、ちゃんと安静にして傷を治すことに専念して」
「おぉ、懐かしの麻里亜ちゃん節」
「もう、茶化さないで。わかってる?」
「もちろん」
「ならいいけど」

 紘太から体温計を受け取った麻里亜は、体温をパソコンに打ち込むと、次に血圧を測り始めた。

「それで、麻里亜ちゃんはどうなの?」
「えっ、何が?」
「最近、何かあったんじゃない?」

 そう言われた瞬間、麻里亜の体は小さく震え、視線が不自然に揺れ始めた。

「いつも通りだよ。何のことかわからないけど……」

 平静を装いながらなんとか言葉を絞り出したが、先ほどまでとは明らかに違う仕草を自分自身で感じ、動揺を隠せなくなる。

「やっぱり何かあったんだね。最初に会った時からいくつもの"(なだ)め行為"が見られたし、おかしい気がしていたんだよ」
「……宥め行為?」
「そう。不安な気持ちを宥めようとする時に見られるサイン。医療の現場でも使ってるんじゃないかな。麻里亜ちゃん、ずっと唇を噛んでるし、耳の後ろの髪の毛をずっと触ってるよね」
「でもそのくらいはーー」
「だれにでもある? そうだね、あるかもしれない。でもあまりにも頻繁すぎたんだ。だから何か不安になるようなことがあったんじゃないかと思ってさ」

 血圧計が計測終了を知らせるように、空気が抜ける音を立てた。しかし麻里亜は血圧計をじっと見つめたまま微動だにしない。

 まさかバレていただなんてーーこのまま彼に打ち明けて助けてもらうべきか、心配かけないように黙っているべきか、心の中で葛藤が生まれる。

 悩んでいると、唇に柔らかいものが触れる感触がして、ハッと我に返る。すると紘太の長くて柔らかい指が麻里亜の唇に押し当てられていた。

「ほら、また唇を噛み締めてる。何か不安なことがあるなら言ってごらん。気を遣わせるとか、迷惑をかけるかもとか、余計なことは考えなくて大丈夫だから、とりあえず何があったのかくらい聞かせてよ」

 なんて安心出来る言葉だろうーー楽しいだけじゃない、頼れる存在の紘太の言葉に張り詰めていた緊張が解け、麻里亜の瞳からは涙がポロリとこぼれ落ちた。

「今勤務中だし……紘太くん、明日退院だよね? もし迷惑じゃなければ、明日の私の退勤後に話を聞いてもらえる……?」
「もちろん、喜んで」

 麻里亜は久しぶりに心からの笑顔を浮かべると、頷いてから病室を後にした。
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