BG様の一途な愛情
4
 朝の巡回の準備をしていると、紘太の手術を担当した美並(みなみ)医師がナースステーションに入って来るのが見えた。

「当直、美並先生だったんですね。おはようございます」

 黒髪に緩いパーマで黒縁メガネの優しげな印象の美波は、三十代半ばで妊娠中の妻がいるにも関わらず、病院の内外にファンが多かった。

「そうなんだよ。緊急でオペが入ったんだけど、さっき終わったところ。安東さんの様子はどう? 今日退院だから、帰る前に診察しておこうと思って」
「あぁ、退院診察ですね。もう行きますか?」
「んー、もうすぐ点灯の時間だから、その辺りで行くよ」
「わかりました。すぐに準備しますね」

 麻里亜は必要な点滴のパックの名前を確認しながら、ナーシングカートに入れていく。

「ありがとう。神崎さんも今日上がれば、明日は休みでしょ? 予定とかあるの?」
「実は……物件を見に不動産屋に行こうと思ってます」
「物件? それは急だね」
「そろそろ部屋が手狭になってきたので……」
「へぇ。いい部屋見つかるといいね」
「ありがとうございます。先生もお休みですよね。予定はあるんですか?」
「俺? 寝て終わっちゃいそう」

 そんな話をしているうちに時間になり、廊下の電気を点灯させてから、二人は紘太の病室に向かった。

「安東さん、おはようございます。入りますね」
「あっ、おはようございます」

 中から声がして、二人はベッドを囲っていたカーテンを少し開ける。

「今日退院希望ですよね。傷口の状態を見せてくださいね」

 美並は紘太の額の大きな絆創膏を外すと、傷口を舐めるように見ていく。

「痛みはどうですか?」
「だいぶ引きました」
「それは良かった。じゃあ予定通り、今日の退院にしましょう。ただまだ抜糸があるので……五日後の外来に来てもらえますか?」
「わかりました」
「神崎さん、外来の予約と、あと新しい絆創膏を貼ってあげてくれる?」
「わかりました」
「じゃあ絆創膏はそのまま、お風呂は入って大丈夫です。お大事になさってくださいね」
「ありがとうございました!」

 そう言い残し、美並は足早に病室にを後にした。

「退院確定だね」
「まぁね、でもせっかく麻里亜ちゃんの仕事ぶりを観察しようと思ってたのに、ちょっと残念だな」

 どちらにしても今は夜勤しか入れていない。紘太が眠っている間に働いているのだから、観察の仕様がないだろう。

「あの……退院したら、駅ビルの最上階にカフェがあるの。そこで待ち合わせでいい?」

 適度に人混みがあり、だけど人との距離が保てる場所ーーそう考え、ここが思いついたのだ。

「もちろん。退院したらすぐに行くよ」

 麻里亜が頷きながら絆創膏を貼ると、紘太は満足そうに微笑んだ。
< 13 / 36 >

この作品をシェア

pagetop