BG様の一途な愛情
 二人はオムライスとパフェのセットを注文し、紘太がメニュー表を片付けている間は無言になった。

 その時、彼がやけに身軽な格好で来ていることに気付いた。

「あれっ、荷物は?」
「あぁ、迎えに来てくれた母親に持って帰ってもらった」
「そうなんだ……おば様は元気?」
「元気だよ。年々元気になっているような気がするくらい」

 麻里亜は再び吹き出した。どんなに元気がなくて落ち込んでいても、紘太と一緒にいるといつも笑顔になれる。彼には不思議な魅力があった。

 紘太のおかげで緊急が解けてきたところで、ようやく麻里亜も自身について話す決心がつく。顔を上げ、紘太の目をじっと見つめた。

「あのね……最近ずっと家に帰ると変な感じがしていたの」
「変な感じ?」
「うん。いつもと同じ部屋のはずなのに、なんかわからないんだけど、ちょっと違うというか……誰かが部屋に入ったような変な感じがするの」
「……それはいつ頃から?」
「二週間くらい前だったと思う。珍しく職場の人たちと飲みに行った日の翌日だったと思うから」

 麻里亜は記憶を手繰り寄せながら、あの日からのことを思い出していく。

「場所はどこだったの?」
「ここからも近いんだけど、駅前の通り沿いにある居酒屋。座敷なんだけど、簾で仕切られた感じの半個室で、隣には別のお客さんがいたよ。飲み過ぎちゃった先輩がいたから、その人を家まで送って、それから真っ直ぐ家に帰ったの」
「麻里亜ちゃんは飲み過ぎてない?」
「私はほどほどに飲んだくらい」
「なるほど。それで、その変な感じがし始めたのは次の日から?」

 真剣な紘太の表情を見ながら、麻里亜は頷いた。

「本当にちょっとしたことなの。玄関のサンダルがズレているような気がしたり、引き出しの中の物が定位置になかったり、ぬいぐるみが向いている方向が明らかに違っていたり……。だから部屋にいるのが少し怖い時があるの。誰かが隠れていて、寝ている間に飛び出して来て殺されちゃったらどうしようとか……」
「……誰かに相談した?」
「してない。なんか怖くて……でも紘太くんは信用出来るし、昔から頼りになるから……」
「そっか。話してくれてありがとう。今日までよく頑張ったね」

 紘太の手が麻里亜の頭を優しく撫でた。その途端胸が苦しくなり、身体中が熱くなる。どうしていまだにこんなにときめいてしまうんだろーー疼きを堪えるため、瞳と唇をギュッと閉ざした。
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