BG様の一途な愛情
* * * *

 届いたオムライスを食べていると、
「この後、麻里亜ちゃんの部屋に行こうと思ってる」
と紘太が言ったものだから、麻里亜は驚いて口をあんぐりと開けた。

「へ、部屋に⁈」

 今まで彼氏がいなかったわけじゃない。でも部屋に上げるほどの関係性になる前に別れてしまうことばかりだった。ということは、父親以外に部屋に入る初めての男性になるのだ。

「そう。ちょっと気になることがあって……あと道具を取りに行きたいから、一度職場に寄って行こうと思ってる」

 職場と聞き、一瞬でも(よこしま)なことを考えた自分を反省した。だとしても、部屋の中の変化がわかるように片付けをしておいたことが功を奏したのは確かだった。

「気になること?」
「そう。いろいろな可能性を考えておきたいからさ、麻里亜ちゃんにも手伝ってもらうからね」
「でも、紘太くんは退院したばかりだし、そこまで甘えるわけには……」
「何言ってるの。そんな不安だらけの部屋に麻里亜ちゃんを帰させるわけにはいかない。それに話してって言ったのは俺だからね、乗りかかった船を見捨てたりはしないよ」
「う、うん……」

 不敵に笑う紘太にドギマギしながら、麻里亜はアイスコーヒーを勢いよく飲み切ってしまう。

 すぐそばだという安東保障株式会社のビルにタクシーで向かった二人は、繁華街からは少し離れた場所にあるオフィスビルの前でタクシーを降りる。

 受付にいた女性たちに頭を下げてから、頑丈な自動ドアを抜けた先にあるロビーに到着すると、そこで待つように紘太に言われる。病院でしか働いたことのない麻里亜にとって一般的なオフィスビルというものは未知の世界で、緊張感を隠せないままソファに腰を下ろした。

 道具とはなんのことだろうーーそこまで広くはないロビーを見まわしながら、少しだけ眠気に襲われる。夜勤明けだし、最近は安眠も出来ていなかった。しかし紘太といると安心感を覚え、心も体もリラックスするような感覚に陥った。

 ずっと不安で仕方なかった。一人で抱えるしかないと思っていた。それが突然目の前に現れた紘太という存在によって、こんなにも不安が軽減されるなんて思いもしなかった。

 うとうとしかけた時、
「お待たせ」
という声と共に紘太が現れたので、思わず体がビクッと震えた。それを見て、彼はクスクスと笑った。手には黒いカバンがあり、その中に彼が言っていた道具が入っていそうだった。

「車で行こうか。そうすれば着くまで少し寝られるし」
「ね、眠くないから大丈夫!」
「ふーん……まぁ車の方が楽だから、そうしよう」

 強がってしまった麻里亜だが、それを上手く変換してくれる。昔から素直になれない自分が嫌いな麻里亜だったが、紘太はそんな彼女が自然と甘えやすい環境を作ってくれるのが上手だった。

 彼の隣は居心地が良くて、安心するーーでも所詮は妹止まりの関係。なのに離れがたくなりそうで怖くなる。
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