BG様の一途な愛情
* * * *

 警察で被害届を出してから、紘太の車で彼の家に向かった。そしてマンションに着いてから、麻里亜はある事実に気付く。不安な気持ちのせいで簡単に彼の家に行くと言ってしまったが、よく考えてみれば、自分の部屋に男性を招くのはもちろん、麻里亜自身が男性の部屋に行くのも初めてだった。

 いや、安東家に遊びに行った時は、紘太くんの部屋でゲームをしたこともあったっけーーその時はまだ彼も高校生で、部屋にはアメコミのフィギュアや音楽のCDが壁を覆い尽くしていた。

 緊張した面持ちで紘太の後ろについてエレベーターに乗り、八階で降りる。濃いグレーが基調のマンションは、今の紘太の雰囲気に合っている気がした。

「今もアメコミと音楽は好きなの?」
「あはは! 昔は部屋に大量にあったよね。量は減ったけど、今も名残はあるかな」

 紘太はドアを開け、麻里亜に中に入るように促す。

「あ、ありがとう……」

 玄関を入った瞬間から、そこは紘太ワールド全開だった。靴箱の上にはアメコミヒーローの人形やポスターが飾られていて、黒が基調の部屋の中が明るくカラフルでポップな空間に見える。

「す、すごい……」

 思わず感嘆の声が漏れると、紘太は苦笑しながら頭を掻いた。

「よく個性的って言われる」
「昔からアメコミヒーローが大好きだったもんね。だから警察官になったんだよね」
「よく覚えてるね。そうなんだけど、やっぱりこういう趣味って女性には引かれたりしてさ」

 その時、麻里亜の胸がツキんと痛んだ。この部屋に足を踏み入れた女性はどれくらいいるのだろうかーーそう考えるだけで、息が苦しくなる。

「私は……紘太くんらしくていいと思うけどね」
「だよね⁈ あぁ、やっぱり麻里亜ちゃんは俺のことをよくわかってるなぁ!」

 1LDKの部屋はリビングと寝室に分かれており、玄関とはまた違ったビンテージもので覆い尽くされていた。男らしいというか、彼の中にいるみたいでホッとする。

「麻里亜ちゃん、夜勤明けだし疲れてるよね。シャワー浴びた後、俺のベッドで良ければ寝ていいから」
「えっ、でもそれは……」
「大丈夫、臭くないはずだから!」
「そういう意味じゃなくて! ベッドを使うのが申し訳ないから……」
「でも俺、まだしばらく寝ないし」

 ここまで言っても引いてもらえないのなら、これは無理かもしれない。麻里亜は唇を噛み締めると、ため息をついた。

「……じゃあお言葉に甘えて……」
「はい、どうぞ」

 諦めた麻里亜は、キャリーバッグから着替えを取り出すと、浴室に入っていった。
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