BG様の一途な愛情
 この病室は今朝一人退院したため、四人部屋でありながらも、耳の遠い高齢の男性が一人いるだけだった。部屋のベッド位置を確認することもなく、手前のベッド付近からハキハキとした男性の受け答えが聞こえてくる。それが紘太の声であることはすぐにわかった。

 葉介と龍彦も察知したのか、呆れたように笑い合うと病室の中に入っていく。するとそこには額に包帯を巻いた紘太が楽しそうに笑っていた。

 その瞬間、麻里亜の胸がトクンと小さな音を立てた。短い黒髪、服の上からでもわかる筋肉質な体、そして人たらしない笑顔。麻里亜がずっと憧れ、焦がれた彼の姿のままだった。

「紘太、大丈夫か?」
「えっ、えぇっ⁈ なんで親父と兄貴がここに⁈」

 突然家族が現れ、驚いた紘太は大きな声を出した。

「なんでじゃないぞ。仕事中に負傷しているんだから、来るのが当たり前だろ?」
「そうだよ。でも心配してたよりずっと元気そうで良かったよ。退院も早そうじゃない? ねっ、麻里亜ちゃん」
「……えっ、麻里亜ちゃん⁈」

 葉介が視線を向けた相手を、きょとんとした表情で見た紘太は、驚いたように飛び起きた。

「麻里亜ちゃんじゃないか! すごい久しぶりだね!」
「はい、三年ぶりくらいですね」
「まさかの大人な対応」
「一応二十五歳なので」
「えっ、この病院で看護師をしてるの?」

 あまりにも積極的に話しかけてくる紘太の態度に、苦笑しながら首を傾げると、龍彦がすかさず二人の間に立った。

「おい紘太! 麻里亜ちゃんが困っているじゃないか。質問攻めにしない!」
「そうそう。だから彼女も出来ないんだよ。グイグイ行きすぎるから。紘太はもう少し引くことも考えた方がいいな」

 紘太は二人に叱られ、落ち込んだように肩を落とした。すると富田が麻里亜に声をかける。

「知り合いなの?」
「あっ、父の友人のご家族なんです。小さい頃はよく遊んでいただきました」
「あぁ、そうだったの。知り合いがいるのなら、安東さんも一安心ですね! 初めての入院で不安だってゴネていたから」
「えっ、い、言ったかなぁ⁈」
「……いい年した大人が何を言っているのか……」
「ま、まぁまぁ! ではまた後ほど伺いますので、しばらくゆっくりお過ごしください」

 その場を収めるため、麻里亜は富田を連れて病室を後にした。
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