BG様の一途な愛情
* * * *

 申し送りを終えた麻里亜は、署名が必要な書類を手にすると、508号室に向かった。先ほどまでの賑やかさとは違い、病室は静けさに包まれていた。

 紘太のベッドの周りはカーテンが閉められていたので、外から声をかける。

「安東さん、失礼しますしますね」
「あっ、はい」

 返事があり、麻里亜はカーテンを開いて中に入る。ベッドの背もたれを立てていた紘太の手にはスマホが握られていた。

「痛みはどうですか?」

 緊張を隠すため、つい敬語になってしまう。

「痛み止めのおかげでだいぶ楽かな」
「まだしばらく痛むと思うので、痛み止めは続けてください。あといくつか署名をもらわないといけない書類がありまして……この丸がついているところにお願いします」

 麻里亜はベッドサイドテーブルをずらし、紘太の前に移動させると、その上に書類を置いた。それを一枚一枚絵確認しながら、紘太はサインしていく。

 背伸びをして点滴の量を確認していた麻里亜だったが、何やら視線を感じて振り返ると、紘太が笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

「な、なんですか?」
「うん? 相変わらず小さくて可愛いなと思って。150センチのまま?」
「……152センチになりました」
「マジ⁈ すごいじゃない! いや、というかあの麻里亜ちゃんが看護師さんなんだーって思ったら感慨深くて。でも小さい頃からそんな予兆はあったよね」
「……そうですか?」
「うん。麻里亜ちゃんっていつもポケットに絆創膏を入れててさ、俺がちょっとけがをするたびに貼ってくれたじゃない。覚えてない?」

 そんなの……覚えているに決まってる。だってそのことがきっかけで看護師を目指したんだからーーでもそんなことは恥ずかしくて口には出来なかった。
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