BG様の一途な愛情
* * * *

 夜勤明け。自宅のドアの前で、麻里亜は不安げに立ち尽くしていた。空には明るい太陽が出ているし、家の前の道には歩いている人の姿も見受けられる。何かあればきっと誰かが助けに来てくれるはずーー麻里亜は意を決すると、マンションのドアを開け放った。

 玄関に立つと、部屋の中は静けさに包まれており、聞こえてくるのは時計の針が動く音と冷蔵庫の電子音だけ。

 麻里亜はゴクリと唾を飲み込むと、部屋中を見て回った。しかし何も異常はなかった。気になったウサギの人形も、昨日家を出る時と同じように後ろを向いていた。

 安堵したのか、大きく息を吐くと、服や下着を箪笥から出して浴室に向かう。疲れを落とすようにシャワーを頭のてっぺんから浴びているのに、どうしても背後が気になってしまう自分がいた。

 浴室から出て着替えを済ませてからワンルームの部屋に戻る。しかし気持ちは落ち着かず、自分の家なのに完全にリラックス出来ないもどかしさを感じる。でも証拠もないのに警察に行く気にはなれなかった。

 その時、ふと頭に安東一家のことが浮かぶ。全員元警察官だし、相談するくらいはありだろうか……。でも逆に心配をかけることになったり、仕事の依頼でもないのに手を煩わせるわけにはいかない。それに安東家は父親のつながりであって、自分が勝手なことをしていい相手ではないのだ。そう考えると、彼らに相談するという選択肢は自然と消滅していく。

 やはり引っ越すことが一番の選択肢なのかもしれない。ここは職場からも近いし気に入っていたけど、事情が事情だし仕方ない。明後日の休みを使って、新しい部屋を決めよう。

 麻里亜はベッドに倒れ込むと、そのまま眠りについた。
< 9 / 36 >

この作品をシェア

pagetop