ミーコの願い事
 台公園はとても広く、ミーコの言う広場は 花壇の反対側にあり、一度しか通ったことがなかったからです。

 道路から一本道で続く、坂道の方からいけばいいのか。

 頭の中で道順を理解すると、時間に遅れることは無いと思い安心をしていました。

「杉田さん他に何か言っていた?」

 ミーコはスケッチブックをめくり、確認をしています。

「偶然会ったことにするから、僕がお願いしたこと内緒だよ……って言ってた」
 
 私は杉田さんが、少し可哀想になってきました。 次の日の休日、生憎の曇り空でした。
 雨は降らないと確信しながらも、太陽はうっすらと雲に隠れています。

 天気予報を気にしながら洗濯と掃除を済ませると、私はミーコの言う時間十二時三十分に、台公園に有る広場のベンチ前に居ました。

 杉田さんを待ってる間、先日の森川さんとの会話を思い出していました。

 会話ではオープンカフェに行くって言っていたけど、正直苦手だなー。本当に白いジャケット着てくるのかな?

 ミーコはつまらなそうな表情で、聞いてきます。

「ねーねー花壇にはいかないの?」

「そうだね、杉田さんに時間作ってもらって、後で一緒にいこうか」

 ミーコとの会話の中、遠くの方から私を呼ぶ声が、かすかに聞こえてきます。

 声の方に視線を移すと、杉田さんと思われる人物が走ってくるのが見えてきました。

「田中さーん、偶然だねー」

 声をかけている場所は、私達の場所から百メートル位離れています。

 あんな遠くから私に気付き近づいてくるのは、普通に考えたら不自然で、杉田さんの演技力が残念に思えました。
 杉田さんは側まで来ると両手を膝に乗せ、苦しそうに息を整えています。

「ハッァハッァ、いやーたまたまここを時間どおりに通ろうとしたら、途中で年配の女性が、公衆電話は何処にありますかって聞くからハッァハッァ、場所まで案内していたら 遅れちゃって」

 嘘の付けない杉田さんは、言葉の所々にボロが出ています。
 油で固めた髪型は崩れ、白いジャケットは汗で濡れヨレヨレになっていました。
 全力で走ってきたことがうかがえると、私は嬉しくなり、ハンカチで杉田さんの汗を拭いていました。


「あっありがとうございます。こんな偶然めったに無いので、お昼でも一緒にどうですか? すぐそこにおしゃれなお店があるんですよ」

 杉田さんは会社の皆さんから聞いた、マニュアル通り進行していくと、ノートからミーコの声がしました。

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