ミーコの願い事
 ミーコは花壇のペンタスを見つめると、言葉を詰まらせながらも、頑張って話してくれました。

「あのね、ミーコの……願い事はね……お母さんとスギタとずーと一緒にいたい。それでね……本当の子供になって、いっぱいのお花の中を三人で手をつないで……ニコニコしながらお散歩したい」

 ミーコは話した後、大声で泣き始めました。
 泣き崩れそうになりながらも力強く握る手は、離すことはありませんでした。

 その言葉に対し、本来なら今でも本当の子供だよっと安心させるために、言わなければいけないのでしょうか? 

 人とかかわっても、かかわらなくても、真実の言葉を発言出来ない場面もあることもわかっています。
 ただ、数多い人の中で、せっかく私の元に現れてくれたミーコには……そんなことを思うと、心の中に有る偽りのない言葉を伝えずには、いられませんでした。

「一緒だよ! お母さんも本当の子供として生まれて来て欲しい。三人でお散歩しよう。私もミーコと散歩したいよ、抱きしめたいよ、ずーっと、ずーっと一緒に居よう。だから今度は私の子供として生まれて来て。お願い」

 私はミーコが我が子として生まれて来ることを、強くペンタスに願いました。

 私とミーコはその後も、顔をくしゃくしゃにして泣いていました。
 鼻を垂らし、咳こみながら泣きつづけていました。

 しばらくして涙が枯れると、お互いの顔を見つめていました。
 私は声をふるわせながらも、ミーコの気持ちを確認します。

「ミーコ、いいかな?」

 ミーコは泣き顔のまま私を見ていましたが、小さく口を開け

「うん」っと、か細い声で答えると、万遍な笑みを浮べました。

 ミーコの笑顔を見つめていた私の瞳からは、再び数多くの涙があふれ出しました。
 
 それはミーコが、普通の絵に戻ってしまったからです。
 まだ夕方で移動する時間帯ではありませんでしたが、私のミーコは居なくなってしまいました。

 杉田さんは横で「ミーコちゃん、ミーコちゃん」っと何度も絵に戻ったミーコに呼びかけています。

 最後のページに描き上がった絵は、ミーコの願い事でした。
 三人で手をつなぎ、花咲き乱れる中を散歩すること、そしてその願い事は私の願い事でもありました。

 最初にあった寂しそうな顔とは打って変わり、幸せそうな笑顔です。

 
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