ミーコの願い事
心の中で自分に言い聞かせると、元気な自分を装いながら、色鉛筆をミーコに見せました。
「ジャーン! 色鉛筆だよ。公園の空、青空に塗ろうか?」
その言葉に、元気よく返事が帰ってくると思ったのですが、ミーコは少し考え私の方を指差しました。
「あの色がいい」
私は指の差す方向を振り返り見ると、部屋は夕日であかね色に染まっています。
その色はそっと現れたかのように、部屋の中に窓枠や、私の影を映し出していました。
「この夕焼けの色?」
「うん」
元気よくうなずき、笑顔を見せます。
私は部屋から見える空の色を参考に、ノートの空をあかね色に塗っていきます。
いただいた色鉛筆をノートに当てると、想像とは違う手応えがありました。
「柔らかい」
まるでクレヨンのように芯が柔らかく、ノートの上を滑るように塗れます。
「杉田さんの言っていた面白い感覚とは、このことだったんだ」
私はその塗り心地と、ノートの空を鮮やかに染めていく色鉛筆の色を楽しみながら、一時の喜びを実感していました。
窓から見える夕焼けの空は眩しいながらも、優しく悲しい色をしています。
その景色を参考に色づけていくと、現実の空も私に答えるように、染め上げていくようでした。
夕焼けを楽しむのは何年ぶりだろう? そんなことを思いながら、雰囲気を出すため、ノートの公園内に補助輪付きの自転車を描き足しました。
そこから長く伸びる影を引くと、ミーコもそれを見て、無言で喜んでいるように思えます。
「何だろう? この夕日、以前に見たことがある」
そんな不思議な感覚が芽生え、私は窓から顔を出し夕焼け空を見ていました。
東京に来てから何度も夕日を見る機会がありましたが、今日の夕日はそれとは違う懐かしさを感じさせます。
子供の時に見たのかな。
何か思い出せ無いことがあるのかな。
私は夕日に照らされながらそんなことを考えていると、理由のわからない涙がこぼれそうになっていました。
そしてある考え浮かぶと同時に、言葉が出ていました。
「ミーコ、絵を描いてみない」
早速ミーコの部屋に鉛筆とスケッチブックの絵を描き始めると、ミーコは側に寄り見ています。
描き上がると鉛筆とスケッチブックを不思議そうに持ち、ミーコは考えていました。
おもむろに線を引くと、ミーコは振り返り笑っています。
ぐるぐるした渦や三角を描くと、また振り返り喜んでいます。
ミーコに伝えられる楽しみが見つけられたと思うと、私は嬉しくなっていました。
そして、その喜びは私の力に変わります。
一歩踏み出してみよう。私の中で小さな決意が生まれていました。