ミーコの願い事
 ノートを開き一ページ目には、ミーコの部屋と夜空が描かれています。
 森川さんは、以前から私が自宅で絵を描いていることを知っていましたが、実物を見るのは初めてです。

「へー素敵じゃなーい」

 声に出し喜ぶかのように、じっくり見ています。

 言葉や表情に嬉しくなりましたが、森川さんは中央近くの涙でふやけた部分に気づくと、指で触れ何かを考えているかのようでした。
 ページをめくり、二ページ三ページ目では、山の上にあるミーコの部屋と虹が描かれています。

 今度も、先ほどの表情まま無言で見ています。
 私は不安になりました。

 ページをめくると、四ページ五ページ目の夕焼けの公園と、ミーコの部屋。
 このページは色鉛筆を使用し色付けしてあるので、華やかなページに森川さんも少し驚き、再び笑顔が戻ります。
 それに気付くと、安心し嬉しくなっていました。

 さらにページをめくり、六ページ七ページ目になった時、私は一息で慌てるように話しました。

「その子は最初一ページ目にいたのですが日付が変わる事にページを移動し現在はそのページに」

 森川さんはノートの中を隅々見た後、私の顔を見つめ不安そうな表情を浮かべました。

「このページに女の子がいるの、私には見えないわ」
 
 その言葉に慌てながら森川さんの横に移動すると、ノートの中を確認しました。
 ミーコは居ます。森川さんの言葉で消えてしまったかと一瞬思ったのですが、ミーコはちゃんと居ました。
 地面に座り鉛筆とスケッチブックを持ち、振り向いた状態のまま森川さんを見上げています。

 初めて見る私以外の人物に驚いたのでしょうか? ミーコは森川さんを見続けたまま、ゆっくり部屋の中に入って行きました。
 少し申し訳ない気持ちで、尋ねました。

「この女の子見えないですか?」

 森川さんは表情を曇らせながらも、疑いのない言葉で謝ります。

「ごめん、私には見えないかも」

「いえいえ、でも本当に居るんです。こんな不思議なこと信じられないかもしれませんが、私には今も見えるんです」

 嘘をついている変な子だと思われたくなく、身振り手振りが大きくなりながら弁解しているかのようにしゃべると、意外な返事が返ってきました。

「大丈夫だから安心して、信じる。実は私も不思議な話を知っているから」
 
 その言葉に、一瞬にして心の焦りが消えました。
 ですが、想像をしていなかった言葉、不思議な話しの意味を知りたいと思う気持ちは、強まっていきました。
 森川さんは自分の中で整理するように沈黙した後、こう話してくれました。
 
 
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