ミーコの願い事
 悪いことをしたわけではないですが、そんな石井さんを直視出来ず、視線をそらしながら答えました。

「……森川さんにいただきました」

 私の言葉を聞くと声色が変わり、残念そうに森川さんに話します。

「えっー、私も欲しい」 

 私はあまり顔を上げられないまま言葉を聞き、このカバンに興味を持ち近づいてきたことを理解しました。
 森川さんは、明るい声で答えていました。

「ごめんごめん、今度何か出てきたら石井さんにもあげるから」

 なだめるような言葉でしたが、石井さんは不満な表情を浮かべます。

「この可愛いカバンがよかったなー」

 不貞腐れた喋り方で私にカバンを返すと、自分の席に帰っていきます。
 森川さんは困惑する私に、誤解を解くように話します。

「あの子、意外にいい子なのよ」

 私の肩を叩くと、さらに安心をあたえる言葉をかけてくれました。

「これは田中さんのだから気兼ね無く使って、石井さんには別な物をあげるからね」

 席に戻った石井さんを見ながら怖かったと思うと同時に、いただいたカバンを可愛いという言葉で表現するなんて、不思議な感性の人だと思いました。

 確かにカバンは変わった形をしていますが、どちらかと言うと落ち着きが有り、大人っぽいイメージです。
 むしろ石井さんが普段から着ている洋服の方が、断然可愛いという表現にぴったりだと感じたからです。
 まじまじ見ることのなかったその膨れ面も、意外に幼く、可愛らしい顔をしていることを知りました。
 
 その日は何故だか石井さんが気になり、視線を彼女に向けてしまいます。
 朝の出来事がとても怖かったのでしょうか? 臆病な私はそんなことを考え意識していました。
 改めて見る石井さんの服装は、本当に可愛らしく似合っていました。
 
 白色でタイトなシャツの襟には、ピンク色の小さなお花の刺繍がされています。
 その上には水色で少し大きいサイズのジャケットを羽織、腕まくりをしていました。
 ふわっと柔らかなロングスカートは、水色と黄緑色の中間のような色で、薄いピンク色の花柄が描かれとても素敵です。 

 おしゃれは勇気などと、雑誌に書いてあるのを見た記憶がありますが、その洋服の組み合わせは、私は到底真似は出来ないと感じました。

 でも、ミーコもあんなかわいい洋服を着たいかも? 洋服にうとい私ですが、スカートの柄やシャツの形を少しアレンジすれば、ミーコも喜んで着てくれるのではと考えていました。
 
 
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