ミーコの願い事
その名前の花は、鮮やかに染まる花びらを持ち、何かを訴えかけているように咲いていた、私のもっとも好きな夏の花です。
咲いていたら綺麗だっだろうなー
丁寧にブーゲンビリアをなぞっていると、不思議な感覚を覚えます。
今でも好きな花であると認識していますが、当時魅了されていた理由を噛み締める重いです。
大きな花を咲かせ、花びら一枚一枚を色濃く染め上げる美しい花。
子供の頃、裏庭に咲いていてほしいと思っていた。
そんな記憶がよみがえると、今でもそのことを願うほどです。
残念ながら今までブーゲンビリアを見る機会は余り無く、幼少期の時に出かけた市民プールの周りに、赤く咲いていたのを見かけただけでした。
両親と出かけた市民プール。
大好きだったブーゲンビリアを通し、忘れていた記憶が広がるように思い出されます。
当時は、肩のアザを気にして学校の水泳には参加していませんでした。
楽しみではありましたが、自分だけ特別なのだと思い諦めていました。
そんな私を両親は心配し、授業以外で水泳を楽しませようと考えてくれたのだと思います。
肩と腰に白いフリルが付いた、アザが隠れる水着を購入してくれました。
休日にはその水着を持ってバスに乗り、自宅から少し離れた市民プールに連れていってくれました。
おかげで泳げるようになり、泳ぐ楽しさを知ることが出来ました。
そして身の回りで唯一咲いていた、ブーゲンビリアを見られたことは、記憶に美しく残っています。
両親との優しい記憶は、現在の心も豊かにさせます。
森川さんの言葉を、思い出していました。
不思議なノートの意味は、非現実的ではありますが、本当かもしれません。
きっと忘れていたことを思い出させてくれる、魔法のノートなんだっと。
ただ、私にとって優しい記憶でも、普通の人からしたら、惨めに映るのこもしれません。
ノートの中では彼女も、寂しい表情のままこちらを見つめています。
そんな彼女を見つめていると、最後に付け足したアザが気になります。
せっかく私がこの世に生み出したのに、何も同じように付け足すことはありません。
自分と同じ思いをさせてはいけないと感じ、彼女のアザを消し始めました。
あれ、おかしいなー消えにくい。
描くときに力を入れすぎたためでしょうか? 鉛筆と紙の相性が悪かったのでしょうか? アザは少し薄くなったものの、完全に消すことは出来ませんでした。
「アザは消えないのか」
考えた結果、消えなかったアザを袖付きの服で誤魔化し、隠すことにしました。
新たに袖の外枠を描き、服全体を鉛筆で塗りつぶします。
今度は優しく、軽く鉛筆でなぜるように上描きいしていきます。
両親のくれた優しさを、嚙みしめる思いでした。
ノートの彼女には思い悩まないでほしい。
服のラインをなぞりながら、そんな気持ちが強くなっていました。
きっと両親も不安にさせないよう、いつも笑顔で接してくれていましたが、アザを常に気にしてくれていたはずです。
優しさや暖かさをもらい育ててもらったのに、人を避け人となじめない自分を作り上げています。
私は彼女を見つめ、公園の花にこぼした言葉を思い出していました。
本当は愛情を感じてみたい、っと。
「情けないな……今の私。充分もらっていたじゃない」
言葉の後、我慢していた気持ちが緩み、視界がぼやけていました。
自分でも不思議なぐらい、大粒の涙が溢れ出します。
自分のことを哀れに思いました。
やっぱりこのノート、不思議な力が……
涙が落ちないよう上を向き、天井からつるされている二本の蛍光灯だけを見つめていました。
誰にも見られることはない。
一人きりだから大丈夫だと思うと、声を出し泣き始めてしまいます。
「うぇーーーん」
みじめな自分を噛みしめていました。
しばらくすると、私しか居ない部屋から、突然声が聞こえてきました。
「どうしたの? なぜ泣いてるの?」
その声はまるで、不安になり困っている子供の声が聞こえます。
一瞬戸惑いました。心臓がキューっと縮まる思いです。
声が聞こえる方にゆっくり目線を写すと、ノートに描いた彼女が話しかけています。
「大丈夫?」