ミーコの願い事

ブーゲンビリア

 猛暑が続く八月の半ば、両親に会うため実家に向かっていました。
 私が住む東京から、電車で二時間ぐらいかかるため、今日は朝早くからミーコと一緒に電車で移動中です。
 電車の中ではノートを広げミーコと小声で話しながら、楽しんでいます。

 最近ではスケッチブックに文字を書き、ミーコは字を覚え始めました。
 時折(さ)と(ち)の向きが違うところは子供らしく微笑ましい限りです。
 そんなミーコを見て笑顔で答える私でしたが、心の中では不安が残ります。

 それは去年の年末のことです。私は毎年年末には実家に帰省するのですが、その日は風邪をひいてしまい帰ることが出来ずにいました。
 
 病気を理由にしていましたが、正直帰省するのが少しおっくうに思っていました。
 会社では仕事の会話だけ、それ以外は誰とも接することの無い自分に、気楽さを感じていたのかもしれません。

 一年で一回、顔を合わすことを両親は楽しみにしてくれていたのですが、帰れない理由を説明すると、電話越しで母がとても残念がっていました。
 
 その時の声は、今でも罪悪感として残っていたからです。
 記憶をたどると自分のことしか考えていなく、その裏では両親を心配にさせていたことに気付きました。

「悪いことしたなー、何でそんな行動をとってしまったんだろう」

 私は流れる景色を見つめ、そんな言葉をつぶやいてしまいました。
 実家の最寄り駅に着くと、そこから更にバスで三十分位です。

 私の地元はバスの本数が少なく、帰宅するのに思った以上に時間がかかります。
 バスの時間を確認しに行くと、親しみの有る声が聞こえました。

「美代子ちゃん」

 父が車で、迎えにきてくれていました。
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