ミーコの願い事
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月下美人

 夏の連休が終わり、今日から会社に出勤です。
 この休みを利用して実家に帰れたことは、私にとって良い経験になったと思っています。
 昨日は最後の休日ということで、部屋で体を休めていました。

 そのおかげで気分が一新したことと、なぜかみんなに顔を合わすことが楽しみになっていて、朝から清々しい気持ちです。
 天気が良く日差しがまぶしく感じ、先日の寂しい気持ちを忘れてしまうほどです。
 テーブルの上にノートを置き、ミーコと会話を楽しみながらの朝食は、食べ慣れたサラダとミルクをも美味しいものに変えます。

 今日は良いことが、ありそうな気がする……

 自分を誤魔化し明るく振る舞っていても、広げられたノートの厚みが目に付くと心が曇ります。

 ダメダメ。後ろ向きに考えちゃ。最終ページはどうなるか、わからないじゃない。
 明るく前向きに。

 そんな気持ちを一瞬の気のゆるみで最悪な気持ちに変化させるのは、私の特技と言ってもいいかもしれません。

「お母さん どうしたの?」

 ミーコは今まで会話していた目線から、いきなり風景が変わったことに疑問をもち話しています。

「嫌だな、私ったら」

 私はテーブルに置いたコップを倒し、入っていたミルクをこぼしてしまったのです。
 いつもはノートを汚さないように食事の時は同じテーブルには置いていないのですが、考え事のせいか気が緩んでしまったみたいです。


 最悪ノートを汚さずに瞬時に両手で持ち上げたのですが、こぼれたミルクはお腹をつたいスカートまで濡らしています。

 最悪だな。着替えなきゃ。

 畳を汚さないように、ゆっくり上着とスカートを脱ぎ洗濯機に入れました。

 駄目だ、体まで濡れている。

 体だけシャワーを浴び、会社に着ていく洋服を探します。

 そうだ、洗濯もしていないんだった。

 昨日は体を休めようという理由で、炊事洗濯を一切しなかったのでした。
 私はあまり洋服を持っていないく、会社に着ていける洋服は全て洗濯機の中に入っていました。

 ミーコは下着姿でウロウロする私が見えると、心配をしています。

「お母さん、なんで裸なの? 風邪ひくよー」

 そんな声が聞こえるノートの前を横切り、着替えを探します。

 タンスの中に無いかなー

 普段あまり開けないタンスを探し始めると、出てきたのは高校生の時から着ている洋服や、通学の時に着ていたジャージでした。

 あれー、どれも子供ぽいなー、しかもなんでジャージなんか持ってきたんだろう?

 その中から極力着ていけそうな洋服を選びましたが、タンスの中に押し込まれていたのでしわくちゃであると同時に、少し防虫剤の匂いがします。

「駄目だ、着られない」

 絶望感の中、ミーコの声だけがします。

「お母さん何が着れないのー? 風邪ひくよー」

 泣きそうになりながら目線を上に移動すると、押入れ上段部にあるハンガーラックの洋服に目が止まりました。
 その洋服は以前石井さんから頂いた、千鳥柄のワンピースでした。
 私はそーっとそのワンピースに手をかけました。

 これ、着てみようかな。
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