ミーコの願い事
 会社についてからも、ふとした時にミーコの言葉と寝ぼけ顔が思い出され、ニヤけてしまいます。

 いけない! 仕事中に一人笑っていたら、変だと思われてしまう。

 冷静な気持ちを取り戻すため、顔を下に向け目を閉じました。 
 何も可笑しくないと心の中で自分に言い聞かせていると、不思議なくらい先ほどの気持ちは消え、可笑しかった意味もわからなくなっていました。

 良かった、もう大丈夫です。

 顔を上げしばらく仕事をしていると、一体何が可笑しかったのかわからなくなっていました。
 逆に先ほどまでの私が変だと感じ始め、気になるほどです。
 確かにミーコが目をつむり、ゆれていたのはこっけいに思えました。

 そしてあの言葉、やっつけたのは、私が戦っているようです。

 そうだっ、そうだった。

 理由を理解すると、再び顔が緩んでしまいます。

 何で考えてしまったのだろう。

 そんなことを思い表情がバレないよう、下を向きました。

「どうしたの?」

 隣から、森川さんの声が聞こえます。

 やはり、不自然な挙動だったのだと思います。
 私は混み上がる可笑しさを押え、返事をしました。

「いえ、フッフッ、なんでもありません」

 少し顔を上げるも見られたくないあまり、森川さんの反対側を向き答えます。

「ふーん、ならいいけど」

 幸いにも、挙動不審な私に、それほど気にしてない様子でした。

「あっ、専務それ」

 森川さんは、違うことに意識がいったようです。
 私はその言葉に安心をすると、頭の中のミーコの言葉は消え、通常どおりの日常音だけが聞こえ始めました。
 顔の緩みも治り、先ほどの可笑しさは消えていました。

 違うことに気を取られたおかげで、何とか持ちこたえることが出来たようです。
 仕事を頑張らなきゃ。もう考えないようにします。
 気持ちを切り替え伝票整理の仕事をしていると、私のたたく電卓の音の合間に、森川さんと専務の会話が聞こえてきます。

 仕事の内容だと思われるのですが、所々しか耳に入らないためさほど気になりませんでした。
 無意識のまま顔を上げ二人を見ると、そのタイミングで森川さんの言葉が聞こえました。

「や’っ’ぱ’、付’け’た’の’」

 あれ?

 ミーコと類似する発言に驚き、二人に顔を向けていました。

 そして森川さんは繰り返します。

「そーや’っ’ぱ’、付’け’た’の’」

 朝の言葉がよみがえると、私は顔を下に向け、笑わないようにこらえていました。
 そんな状況でありながらも、一体何をつけたのでしょうか? 

 イケないと思いながらも興味がわいてしまい、二人を見てしまいました。  
 専務は会社の鍵に付けたキーホルダーを、自慢げに顔の前に差し出すと、森川さんは目で数えるように見て話しました。

「すごーい、八’つ’も’付’け’た’の’」

 その会話を聞こえると、私はさらに可笑しくなり、その場を逃げるように離れました。
 
< 68 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop