ミーコの願い事
 このノートを持っている私は、変な人だと思われているのだろうか? 
 やはり人と接していると、必要以上に悩み事が増えてしまう。

 そんなことを考え体温計を見ると、普段より少し高い数値を指していました。

 私は安心しました。

 それを理由に、休めると思うズルい考えがあったからです。
 ズルいこととわかっていながらも、熱が高いことを正当化する私は、森川さんが出勤する時間を考えてから、会社に電話をかけていました。
 
 電話先では、森川さんの心配してくれる優しい声が、心に突き刺さります。
 受話器を置いた後は更に、自分に質問を投げかけていました。

 本当に会社を休むほどの、熱だったのだろうか? 
 杉田さんに顔を合わすのを先延ばしにしたことで、余計に合わせづらくなるのではないか? 

 杉田さんの立場になって考えたら、私が休むことによって自分をせめてしまうかもしれません。
 窓の外は昨日までの雨は止み、明るい日差しが窓を照らしています。

 学校へ向かう子供達の声が楽しそうに聞こえ、まるで私だけ時間から取り残された気持ちにさせます。
 逃げ出し始めた自分が、惨めに感じました。

 弱気になった私は、ミーコにすがるような思いで、ノートに目を移しました。
 ノートの中ではミーコがスケッチブックに、何かの絵を描いているようです。

 なんだろう? 何の絵だろう? 

 今日はまだミーコの部屋しか描いていないので、何を描いているのかわかりませんでした。
 改めて見たその絵は、人の形をしていて、顔は獣のようでした。
 
 何だろうこの絵! なんて奇妙なの。

 ミーコの表情を確認すると、取りつかれたかのように一心不乱な状態です。

 ひょっとして私の心の醜さを、絵として描き上げているの?

 そんなことを考え、恐怖を覚え見つめていました。
 描き上がって行くその絵からは、喜怒哀楽の一つも感じ取れません。
 悍(おぞ)ましい生き物のようです。

 嫌だ、私そんなに冷たく写ってしまっているの? 

 私の呼吸も荒くなり、慌ててミーコに問いかけました。

「やめてミーコ、一体何を描いているの!」

 ミーコは振り返り表情変えずに、話します。

「猫の友達」

 その言葉に理解しようと、少し時間がかかりました。

「そうだ遊園地のキャラクター」
< 83 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop