ミーコの願い事
 以前営業の高木さんが一方的に話していたのですが、そのお店のご主人は若い頃、凄く不良だったそうです。
 現在では大人になり性格も丸くなったそうで、態度の悪い学生を見るとお説教をするほどの、教育熱心に変わったそうです。
 お店の前に立つ桜井さんを見て、先ほどの駅での会話を思い出していました。

 駅で噂された目の鋭い人、それは桜井さんではないかと。
 今も昔のスケ番を思い出し、勝負を挑みにきたのではないかと。
 私はそんなことを思い、ミーコに相談していました。

「どうしようミーコ、駅に居た目の鋭い人って桜井んかも」

「見せてー見せてー、鋭い人見せてー」

 私とミーコはハラハラしながら二人を見ていると、桜井さんは沈黙の後、その男の人に向けて指をさし出ししゃべり始めました。

「メンチ……」

 私は驚きました。
 その言葉も、高木さんに一方的に教えてもらった不良用語。メンチを切るとか言う言葉だと思い出したからです。

 お店のご主人は真剣な表情を浮かべ、桜井さんから目を離しません。
 桜井さんは差し出した二本の指を、ゆっくり開きます。

「……カツふたっつ下さい」

 お店のご主人は笑顔をみせると、愛想良く答えます。

「あいよーメンチカツ二つ、百六十円で四十万円のお釣り」

 とても気のいいおじさんでした。
 佐々木屋さんがお肉屋さんであることを、すっかり忘れていました。

「ごめんミーコ、私の勘違いだったみたい。普通お肉屋さんでメンチって言ったら、メンチカツだよね」

 ミーコも目をつむると、息をふーっと吐き出しています。

「なーんだ、お母さんの勘違いかー」

 私達は安心して笑っていました。
 会話の中、ミーコがこんなことをしゃべりました。

「でも桜井さん、なんで長い棒を、持っているんだろうね」

 その言葉が気になり慌てて見ると、左手には長い棒のようなものを持っています。
 私も不思議と思い、声に出していました。

「ミーコ、長い棒って何に使うかな?」

 その質問にミーコは、元気よく答えます。

「スイカ割りー」

 手の平を握り、上げています。
 頭の中では、棒はスイカを叩く物、棒は叩く物、桜井さんは叩く物を持参していると、展開していきました。
 私は嫌な予感がし、そのまま桜井さんの後をつけることにしました。
< 93 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop