ミーコの願い事
 でも、はじめに店名を聞けばいいのにとも思いました。
 どうやら、私はまた勘違いをしていたようです。

「ミーコごめんまた勘違いだったみたい、普通、住宅街に喧嘩の相手探しに来ないよねー」

 そう話し自分に呆れていると、ミーコは真剣な顔でこんなことを言いました。

「お母さん、桜井さんが持っていた長い棒、あれトンカチだよ」

 その言葉に、驚きが隠しきれませんでした。

 何で、そんな物もっているの?
 私は恐れながらも、若者の前を通り桜井さんの後を追いました。
 
 お店から出てきた桜井さんを見ると、確かに持っていた棒の先には円筒状の物が着いており、トンカチにしか見えません。
 正確には木製だったので、木槌と表現した方がいいでしょうか。

「ミーコ、木槌ていったい何に使かうんだと思う?」

 私は自分では想像出来ない使い道を確認すると、自信なさ気な声で答えが帰ってきました。

「えーっと、えーっとね。小さな人を大きくさせる物?」

「うっ、うん、それは多分、打ち出の小槌のことかな? 確か一寸法師を最後に大きくしていたけど」

 私の知らないところで、ミーコと杉田さんがどんな内容の会話をしているのか、不思議に思いました。
 でも、今は桜井さんのことが先決です。
 私は不安を抱きながら、後をつけていきます。 住宅街を抜け見覚え有る景色に変わると、私はわずかながらの安心を感じていました。

「あっ、この道に出るのか。この道は何度も通ったことがある」 

 しかし、私の目の前には木槌を持った桜井さんが、歩き続けます。
 後を着けながらも、迷い無く進む方角に、嫌な予感だけが膨らんでいきました。

「ここってまさか」

 しばらく歩くと、見覚えのある建物でした。
 たどり着いた場所は、お祭りの日に会った白百合呉服店です。
 辺りはすでに夕方になり、私の不安を煽るようにカラスまで泣いています。

「まさか、専務にお祭りの時の恨みを晴らしに」

 桜井さんは何の抵抗も無く呉服店の呼び鈴を押すと、そこに出てきたのは専務では無く、白百合社長でした。
 予想を超える人物に、驚きました。
 そして、何であの優しい社長をとも思い、訳が分からなくなってしまいます。

 若者に色眼鏡をかけることも無く、真正面から向き合ってくれる優しい社長に何故? 
 私はこの後に起こると展開を想像して、恐怖心を抱いていました。

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