ミーコの願い事

告白

 最近気付いたのですが、以前より杉田さんと喋る機会が減ったように感じます。
 ノートの話をしたあの日から、行動がぎこちなく感じ、もう直ぐ就業時間が終わる現在も、何かソワソワしています。
 
 そんな杉田さんを見ていると、普段入ることの無い応接室に一人、入っていきました。

 こんな時間にどうしたのだろう?
 応接室は全体が曇りガラスになっているので、ガラスの側に居るとなんとなくその仕草がわかります。
 どうやら杉田さんは、ガラス近くに置いてある電話で誰かに連絡をとろうとしているようでした。

 受話器を持ち上げてはためらい下ろし、その繰り返しをしていました。
 会社のみなさんは、杉田さんの不自然な行動に仕事の手を止め、注目をしています。
 
 高木さんは応接室に居る杉田さんを指差し、その仕草に応えるかのように桜井さんは、両手を肩付近まで上げています。

 社長もメガネを掛け直し、応接室の方を見ています。
 
 杉田さんは、意を決っして電話をかけ始めました。
 こちらに背を向け受話器を持ち、左手は腰に当て見上げています。

 その姿から、緊張していることが伝わります。
 何処に電話をかけたのだろう? 
 みんながそう不思議がっていると突然、森川さんの机に置かれている電話が鳴りました。

 みんなの視線が、森川さんの電話に集まります。

「はい、橘デザインです。あっ杉田くん」

 どうやら応接室から、森川さんに内線をかけているようでした。

「どうしたの? 内線なんかかけて」

 席が近いことから、電話からの声が薄っすら聞こえます。

「しーっ僕だとバレないように、小声でお願いします」

 そんな杉田さんの願いもかなわず、すでに電話の相手が誰であるかは、社員全員が気付き呆然とした表情をしています。
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