あきらめないで、生きること。

どの辺がいいかな…とひとりで歩きながら場所を探していたら、偶然通りかかった女性と目が合った。

「こんにちは」

思い切って挨拶すると、

「こんにちは」

その女性も、優しそうな笑顔で返してくれた。

年齢は、わたしより2、3歳上くらいかな?

ほんわかした雰囲気で、話しやすそう。

一目見て直感で「仲良くなれそう」と思ったわたしは、

「おひとりですか?」

勇気を出して話しかけてみた。

「はい」

「じゃあ、良かったら一緒に観ませんか?」

「ぜひ!」

そしてわたしたちは、一緒にライブを観ることになった。

お互い立見席だから、隣同士の場所を確保すれば一緒に観ることができる。

ライブが始まるまでの間、メンバーの中では誰のファンか、どの曲が好きかなどの話で盛り上がった。

初対面にも関わらず話が盛り上がるのは、同じバンドのファンだからこそだと思う。

前々から、“ライブ会場で知り合った人と友達になった”という話に憧れていたわたしは、すごく嬉しかった。

ライブ中もお互い思い切り楽しんで、ライブが終わった後も一緒に帰った。

帰りの電車の中では、ライブの興奮が冷めやらず、終わったばかりのライブの感想をお互い熱く語り合った。

すっかり意気投合したわたしたちは、別れ際に連絡先を交換した。

彼女の名前は、蒼山(あおやま)沙織(さおり)さん。

年齢はなんとわたしより8歳上で、すでに社会人として働いているという。

初対面の人とこんなに急速に親しくなったのは、初めてだった。

去年は、あんなに人と接することや人が怖いと思っていたのに。

こんな風に、自分から話しかけたことがきっかけで、仲良くなれるなんて…。

思いがけない新しい出会いに感動して、胸の奥が温かくなった。

蒼山さんと別れて電車を乗り換えると、隣の席の人もわたしと同じライブに行った人だったらしく、「ライブの帰りですよね? 実は行きも同じ電車だったんですよ」と話しかけてくれた。

それから、駅に着くまでお互い今日のライブの話で盛り上がった。

残念ながら名前も聞かず、連絡先交換もしなかったけど。

「またどこかでお会いできたらいいですね」

という言葉で別れた。

みんなひとりでの参加だったから、話しかけやすかったというのもあるだろうけど。

こんなに初対面の人とたくさん話せたライブは初めてだった。

きっと、これは去年頑張ったご褒美なんだ。
そう思える、とても素敵な1日だった。


* * *


まだライブの余韻が残る、9月の初めのある日。

わたしはまだ夜が明けきらない時間に起きて、眠い目をこすりながら出かける支度をした。

行先はディズニーシー。

春花ちゃん達とみんなで約束をしていた日だ。

友達と行くのは初めてだったから嬉しくて、まるで遠足前日の小さい子みたいに何度も目が覚めてしまった。

残念ながら、台風が接近していて天気はとても悪かった。

もともと晴れ女のわたしも、この日は雨の力に勝てなかったみたいだ。

だけど、みんなで傘をさしながら園内を歩いてアトラクションに乗って、雨にも負けず風にも負けずワイワイはしゃいで思い切り遊んだ。

お店に入ってお土産を見たり、夜には学校のお昼休みと同じように5人でご飯を食べてガールズトークしたり、1日中めいっぱい遊んで楽しんだ。

帰りの電車の中、心地よい疲労感を味わいながらこの夏休みを振り返った。

楽しいことばかりだった夏休み。

去年の夏休みは、1日1日過ぎていくのが怖かった。

2学期が始まることがたまらなく憂鬱だった。

でも、今年はそれほど憂鬱な気持ちはない。

苦手な授業を受けなくちゃいけないとか、文化祭や体育祭の準備で忙しくなるのが面倒だとか、その程度のことで。

こんなに充実した気持ちで過ごせた長期休みは、高校生になってから初めてだった―。
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