一センチと一秒
「あれ?ゆか、たかしとケンカしたの?めずらしいじゃん~」
美香はそういいながら、ココアに手を伸ばす。
「ケンカかな・・・よくわかんないや。」
実際、たかしはケンカしたくないから、帰れといったわけだし。
「あ~、やっぱりゆかがいれてくれるココアは最高だね♪」
私の話を聞いているのかいないのか、ニコニコとココアを飲む美香。
美香はココアを好んで飲むが、インスタントのものは絶対に飲まない。
自分ではココアの入れ方すらわからないのに、うちには美香専用のカップとバンホーテンの大きな缶が戸棚にきちんと自分の居場所を持っている。
私が眉間に皺を寄せたのに気付いたのか、
「だって、どうせたいしたことないんでしょう?」
と、あっけらかんという。
「じゃあ美香のほうは深刻だっていうの?どうせまた兄貴が迎えに来るの待ってるくせに」
「そんなことないよ。あたしは別れることも考えてるもん。ほかの女に目が行くなんて許せないもん。」