転生聖職者の楽しい過ごし方【閑話集】
アデライト・フロベール
私の家は昔から武勲を誇る家だった。先祖は隣国との争いで勝利し大きな領地を拝命した。何代か前に王女が降嫁してきたため、私の魔力は貴族の中でも強かった。
我が国は魔力の強さで王位継承者を決めるため、全ての王子が洗礼するまで立太子は行わないが、第一王子のシド様、第二王子のシャルル様、第三王子のラウル様のお三方の中で決まるだろうと思われていた。
私は小さな頃から父に王妃になるのだと言われて育ち、家柄・魔力・容姿どれを取っても王妃になるのは私しかいないと自分でも思っていた。
だから私は王妃になるための努力をしてきた。誰が立太子しても良いように色々な趣味を持った。友達と遊ぶこともせずに王妃になるための教養を身につけた。学院を卒業してからは国民に寄り添う気持ちを養うために神殿の職にも就いた。
そしてシャルル様が立太子された。けれど、私に王太子妃の話は来なかった。シャルル様は私など目にも留めていなかった。婚姻の相手には魔力の強さを求めないと言い、町の娘に手をつけた。悔しかった。
次に手を付けたのは学院を卒業したばかりだった伯爵令嬢のクリスティーヌだった。舞踏会でシャルル様の目に留まったのだ。私はクリスティーヌに近づいた。彼女に町娘とその子どもの事を親切に教えてあげた。彼女は体を震わせ、二人の恋心を思い遣り泣いた。
私は父に泣きついた。私の知っていること全て父に話した。私と殿下の関係を邪魔する女の存在を。
数ヶ月後、私とシャルル様の婚約が決まった。町娘はお父様と陛下が王都から出し、お父様の領地へと行かせた。
月日が経ち、シャルル様は王となった。
彼が王になり、最初にしたのはあの女との間に授かった子を王宮に引き取る事だった。さすがに女は後宮には迎えられずクリスティーヌが母親役になった。
父の部下を使って、女の所在を調べたが宛がった家はもぬけの殻になっていた。
悔しさで流れそうになる涙を必死に堪えた。王妃としてどんなに尽くしても王は私を見ては下さらない。四年の月日が経っても私たちは夫婦にはなれていなかった。側妃が次々に子を産むなかで、私だけが彼の妻になれていない。
どんなことをしても彼の心を向けることが出来ない。ならば、あとはどんな手段をとっても彼の子を身籠もるだけだ。鮮やかな橙色の魔力を持つ私が男子を産めば、その子が絶対に王に就く。もう私に残っているのはそれだけだから。