幸せだよと嘘をつく
帰って来て雪乃がいなくなっていることに気がついただろう夫からの連絡はなかった。
そもそもスマホを壊してしまったから、連絡のしようがないだろう。
パソコンに同期していたら番号くらいは分かっていると思うけど。
そんなことを考えながら、雪乃はビジネスホテルで賃貸住宅情報を検索していた。
トゥルルルル、トゥルルルル……
ホテルの部屋の電話が鳴った。
『河津康介様というお客様がいらっしゃっています』
受付からの電話だった。
どうやって自分の居場所を突きとめたのか雪乃は分からなかった。
連絡せず、直接宿泊先に来る強硬手段は康介の決意表明のような物なのだろう。
長期滞在できて、価格的にも安く雪乃の会社に近いホテルと考えればだいたい察しはついたのかもしれない。
けれど、ビジネスホテルが混在しているこの地区で、泊まっているホテルを特定するのは難しかっただろう。
受けて立つしかないが、雪乃は流されるタイプではない。
静かだが自己主張はするし、怯えて何も言わない性格でもない。
『行きます』
部屋に招くのもどうかと思い、下に降りていく事にした。
雪乃が家を出ていってから5日が経っていた。
康介は仕事帰りに来たのだろう。
時間は夜の8時だった。