幸せだよと嘘をつく
康介の話に流されないよう、いったん別の話に切り替えた。
「私の居場所、よく分かったわね」
「あらゆるホテルに電話しまくった」
康介さんの、まさかのアナログ戦法に驚いた。
彼女との別れ話に雪乃との離婚問題、妻の捜索。
そこまで康介さんが必死になるほど、自分の存在が大きかったとは雪乃には思えなかった。
「結婚生活にそれほど重きを置いていたとは思えない。戸籍にバツが付くことがそんなに嫌なの?」
「戸籍がどうなろうが問題はない。ただ、離婚すれば君とは夫婦でいられなくなるだろう。俺は雪乃と他人になりたくないし、雪乃が別の人生を歩むのも嫌だ。俺と一緒にいてほしい」
ただの自己満足なのだろうか。
雪乃は康介がどれほど自分を傷つけたのかを知ってほしいと思った。
「離婚……離婚しないで済む条件を出して欲しいって言ったわね?」
「ああ。君と離婚しないで済むならなんだってする」
「じゃぁ、この先半年間、私が浮気をするわ」
「……え?」
「私が、他の男性に抱かれるの」
「それは……いや、そんな事君ができるはずがないだろう」
思っても見ない言葉に康介は唖然とする。
雪乃からそんな条件が出るなんて考えてもみなかったのだろう。
「できる」
「……や、できない。雪乃はさっき、遊びで他の女を抱いた俺を軽蔑すると言った。軽蔑するような事を君がするはずはない」
雪乃はどうかしらというふうに首を傾げた。
「私はこの先半年間、水曜と金曜に他の男性に抱かれるわ。食事に行ったりデートしたり、旅行に行くかもしれない」
「俺は旅行には行ってない」
「そんなの知らない」
「雪乃は他に好きな人がいるの?」
「いいえ」
「なら、そんな無茶なことできるはずがないだろう」
できるわ。体の関係は、愛がなくてももてるってあなたが言ったんだから。