幸せだよと嘘をつく




小林真奈美とは個室のあるカフェで会う事になった。

「この度は、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした」

深く頭を下げ彼女は雪乃に謝罪した。

「もう二度と会社に電話はしてこないで下さい。私は今後一切、あなたとかかわりを持ちたくありませんから」

「ただ……聞いてほしかったんです」

なにを?

「私と康介さんは学生時代からの友人でした。ずっと会っていませんでしたが、1年前に偶然町で会いました」

「いえ、そんな事はどうでもいいです。聞く必要がありません」

「どうしてそうなったかを知っていただきたいんです」

なんで?

「ほんとに出来心で、1年前に体の関係を持ってしまいました。やめよう、これで終わりにしようと思いながらも、1年も関係を続けてしまいました。本当にごめんなさい」

「1年……」

康介は彼女と深い関係を持ったのは半年前だと言っていた。

「はい。主人が単身赴任で、ワンオペの育児に疲れていた私を慰めてくれたのは康介さんです。食事や旅行にも連れて行って下さって。子供達にも良くしてくれて。私は彼に甘えていました」

「旅行……子供と会っていた」

そんな話は聞いていない。
いや、雪乃が康介に聞かなかっただけかもしれない。

「誕生日やクリスマスなどの記念日を独占していまいすみませんでした。奥様と過ごされなければならないのに、一緒に過ごしたのも私の我儘です。どうかお許しください」

真奈美さんは目に涙を浮かべながら謝罪する。
謝ってもらった気がしないのは、彼女の言っていることはおかしいからだ。

「あの……何を言っているんですか?」

彼女は、自分がいかに康介と仲良くしていたのかを雪乃に報告している。

「証拠はあります。その都度、写真を撮りましたし、顔を隠していますがSNSにアップしていました。それが私の生きがいみたいになっていて、癒しでした。悪いとは思っていたのですが、彼から想われているという実感が欲しかったんです」

この人はふざけているのかしら?

「SNSにあげていたんですか?」

「え!奥様はご存じなかったんですか?てっきり全て知っていて、それで浮気がバレたのかと思っていました」

いや、知らないわよ。というか、康介も絶対知らないだろう。
彼は、ラインのログも即削除するタイプだ。ネットに上げている事を知っていたら許すはずがない。

「あの、それって私は知リませんでした。今更ですが、アカウントを教えてもらってもいいですか?」

「はい……そうですよね。もう、バレてしまっていますので、教えますね」



< 20 / 49 >

この作品をシェア

pagetop