幸せだよと嘘をつく




真奈美さんは自分のSNSのアカウントを簡単に雪乃に教えた。


馬鹿でもなければ、自ら不倫の証拠なんて提示しない。
この人は、自分の不倫の写真をわざわざ妻である私に見せたいんだ。
雪乃はそう確信した。

「これが証拠になって、あなたは私から慰謝料請求されるかもしれません」

「それも覚悟の上です。だいたい200万くらいが上限ですよね。1年の不倫ですし。けれど、それは康介さんが払うと言ってくれているので。もう、私には何もできません」

この女の慰謝料を、康介が……支払うの?
嘘でしょう。

「康介とはまだ付き合いが続いているのですか?」

「あの日、エグゼホテルのディナーのときに別れました。康介さんは奥様に関係がバレたので別れると言っていました」

「ホテルのディナーを……もしかして康介と一緒に食べました?」

「はい。最後の晩餐と言いますか、もうお別れだという事で一緒に食事をしました」

離婚を切り出したあの日、彼女に別れを告げに行くと焦ってマンションを飛び出して、エグゼホテルでディナー?食べたの?
信じられない。

「……嘘でしょう」


「ホテルのレストランで、奥さんにスマホを壊されたから、もう連絡ができないと康介さんが言っていました。彼は私の番号を記憶してませんし、今は連絡が取れません」

いや、もうとっくにスマホのデータは復活してるし。
連絡を取ることは可能だろう。

しないのであって、できないわけではない。

「ひとつだけ、大事なことを聞きますね。真奈美さんは、現在のご主人と離婚して康介と一緒になりたいと思っていますか?」

「……ううっ……それは……私には子供がいます。離婚はできません。けれど、康介さんは私にとって一番大事な人で、今でも愛しています。もし、もし……奥様との離婚が成立し康介さんが独身になったら、私は夫と離婚してでも、彼と生きていきたいと思っています」

「は?」

もはや、驚きを通り越して悪寒がする。

「ごめんなさい……ううっ……正直な気持ちです。本当に申し訳ありません」

彼女は泣きながらテーブルに突っ伏してしまった。もうなんか、わざとらしいというか、演技ですよね、としか言いようがない。呆れて物が言えないとはこういう事だと思った。

真奈美さんが泣いている間に、スマホで彼女のSNSを確認した。
アカウント名は『MANA=KOU』1年前に作られている裏垢だ。

行ったレストラン、泊まったホテル。旅行した温泉宿。もらったプレゼント。
私は急いでアカウント情報を綾ちゃんにラインで送って、証拠を確保して貰う。

綾ちゃんはこういった作業は得意だ。
スクショ案件は全て完璧にこなす。

あとから真奈美さんが削除しても、綾ちゃんが魚拓で残す。





もう、完全に終わったわ。

康介さん、あなた地雷女を引き当てたわね。



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