幸せだよと嘘をつく


7

「時間を置いて、関係を復活させる気でいるのかもしれないわね」


「ん?どうしたの」


康介が風呂上りにビールを飲みながら雪乃に訊ねてきた。

残業を減らしたのか、彼は最近、早い時間に帰宅する。
康介が先に帰っている時は、雪乃の夕飯を作ってくれていた。

嫁に尽くす旦那作戦だと思うけど、仕事を早く終える事ができたのかと思うと腹立たしい。
今更感が否めない。

雪乃は平穏な夫婦を演じている。

今までと変わらず、仲の良い夫婦だ。

ただ、執拗なボディータッチは心情的に無理だ。

それに愛しているとか、好きだとか、幸せだと口にだして言わなくなった。



「今日はちょっと疲れたの。先に休んでいいかしら?」


「ああ……その……明日って水曜日だよね」

「ええ」

「帰りは、やっぱり遅いのかな?」

「そうよ、接待だから遅くなるわ」

水曜と金曜の雪乃の予定は接待だ。
康介は半年間「今日は接待で遅くなる」と言って不倫していた。

だから雪乃も同じ言葉をそのまま夫に伝える。

訊かれても雪乃は接待としか言わない。
本当のことを言うはずないのに、わざわざ確認してくるのはなんでなんだろう。

「適当に晩飯食って帰るよ」

「そうね。美味しいものでも食べてきてね」

笑顔でそう返事をして寝室へ向かった。


明日は、前島さんと、綾ちゃんと3人で焼き肉を食べに行く。

決起会だ。もちろん雪乃が御馳走する。



雪乃は康介に300万プラス弁護士費用とこれまでに彼女に使ったホテル代など150万、真奈美さんに慰謝料300万を請求する。





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