幸せだよと嘘をつく

8

前島さんと次の水曜は仕事帰りにスーパーで買い物をしてから、一緒にアパートへ帰ろうと約束をした。

重い買い物袋を前島さんが持ってくれた。
まるで夫婦のようだなと雪乃は思った。


「あなただって浮気してるじゃない!」

後ろから女性の声が聞こえた。

「なに?」

振り返ると、そこには小林真奈美さんが立っていた。

「あなただって……浮気してるじゃない……」

彼女は目に涙を浮かべて、鬼のような形相で雪乃を睨んでいる。

前島さんは雪乃を守ろうと、真奈美さんとの間に体ごと入ってきた。

「自分の事は棚に上げて、康介の浮気を責めて、無理やり別れさせたでしょう?それに慰謝料請求ですって?酷い女ね」

「なに……」

「私たちは愛し合っていたのよ。それなのに、スマホを壊して連絡が取れないようにするなんて卑怯よ。自分だけ新しい男とよろしくやって全部自分のものにして満足?別れなさいよ!離婚してよ……康介さんを私に……ちょうだい」

「私は、あなたと話すことは何もありません。弁護士を通して」

急に突撃してくるなんて異常だ。
スーパーの帰りに、こんな目立つ場所で修羅場を演じるつもりはない。

「あなた知ってるの?この女は結婚しているのよ?立派なご主人がいるの。不倫関係になっていることを知ってる?」

今度は前島さんに向かって真奈美さんが突っかかってくる。

彼女は興奮している。
雪乃は、関係のない前島さんを巻き込みたくないと思った。

「この人は夫の不倫相手だった小林真奈美さんです」

前島さんに説明する。

「ここではなんだから場所を変えて話した方がいい。ご主人に連絡して、ここに来てもらおう」

前島さんが真奈美さんに話しかけ、道の端に誘導した。

「この女が、康介さんに私と会うなって言ったのよ。この女が、別れろ、二度と話をするなって言ったから康介さんは連絡をくれないの。全部この女のせいよ」

確かに、それが離婚しないための条件のひとつだった。


「雪乃さん。ご主人に連絡をした方がいい。ここに来てもらって」


前島さんが「落ち着いて下さい」と真奈美さんに声をかける。
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