幸せだよと嘘をつく
雪乃side
「申し訳ありません。巻き込んでしまったのは私の責任です」
カラオケボックスから連れ出してくれた前島さんに謝った。
「ああ。そうだな」
「もうこれ以上、迷惑をかけるわけにはいきませんので家に帰ります」
太陽君もいるのに、前島さんを個人的な問題に巻き込んでしまった。
とにかくアパートへは行けない。
家に帰って、康介と真奈美さんがどういう話をしたのか、ちゃんと確認しなければならない。
「いや、駄目だ」
「……え?」
「俺を巻き込んだ責任を取ってもらう。それに、俺は君の浮気相手だと言ったのに、君は家政婦だと説明した。俺はそこに怒っている」
「そ、それは、事実じゃないですか」
「いや、俺と体の関係を持つことは君も承知していただろう。実際にはそうはなっていないけど、最初の約束では俺が君の浮気相手になる予定だった」
「それは、そうですけど……」
「手を出さずに我慢していたのが間違いだったな」
「それは、どういう……」
「今から既成事実を作るから、このままアパートに来るんだ」
前島さんは私の腕を掴むとそのまま歩き出した。
「もうご主人には遠慮しない。雪乃を抱く、嫌ならいってくれ」
「私は前島さんとそういう関係になってもいいと思って、ここに通っていました。後悔なんかはしません。……っけれど、こんな勢いに任せた、やっつけ仕事のような状態で抱かれたいとは思いません」
そう言った雪乃を前島さんは抱きしめた。
体と、心は……別なのだろうか……
「今日は泊まっていって。明日はここから出勤すればいい」
大きな広い男性の胸に抱きしめられ、彼の体温を感じた。
「君を抱くよ」
「……それは」
続く言葉は前島の唇に吸い取られた。