幸せだよと嘘をつく
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康介はあの日、真奈美さんとの話し合いが長引いたのか終電もなくなった深夜にタクシーで帰宅した。
翌日、雪乃は真奈美さんとカラオケボックスでの話し合いの録音を聞いた。
「真奈美さんは康介を本気で愛しているのね」
「そうだったみたいだ」
康介は眉間にしわを寄せ、苦悶の表情を浮かべた。
録音の中で、康介は何度も真奈美さんに伝えていた。
『あれは遊びだった。妻とは離婚しないし真奈美さんと復縁するつもりはない』と。
『奥さん浮気しているのよ!あなたとは離婚したいって言ってたじゃない』
『妻は、俺が浮気したから、それと同じことをする。それでも離婚したくないと俺が行った。彼女の不倫は俺が認めた事だ』
『それじゃぁ、康介さんもまた私とよりを戻せばいいわ!』
『俺は、妻を愛しているから、真奈美とは付き合わない。今度同じことをしたら離婚すると言われている』
『離婚したらいいじゃない!私だって夫と離婚したわ!』
同じような言い合いの繰り返しだった。
遊びのつもりでも、相手はそうじゃなかったという事だ。
「その場しのぎで甘い言葉を使っていたあなたが悪いわね」
「ああ……彼女には家庭もあり子供もいる。まさか俺に本気になっているとは思わなかった」
康介は辛そうに眉間にしわを寄せた。
「結局、話は終わってないようだけど」
「彼女とまた話し合わなければならない。彼女側も弁護士を立てるべきだと言おうと思っている」
「彼女との話合いは必要だわ。私は穏便に済まそうと思っていたけど、彼女が直接私に接触してきた。私は最初に謝罪したいと真奈美さんが言ってきた時に弁護士を雇ったわ」
「ああ。分かっているよ。全部、俺が真奈美ときちんと別れられなかったことが原因だ」
「そうね。とにかく、彼女を何とかしてほしい。それができるのはあなただけだから、今後、彼女と二度と会わないでとは言わない。好きにしてちょうだい。けれど、また以前のように体の関係を持つのなら、先に離婚届を書いてからにしてね」
「それはない。もう俺は真奈美に興味はない」