幸せだよと嘘をつく




雪乃はそれから前島さんの家へ行くのをやめた。
香さんへの愛情に前島さんが気付いたからだ。

前島さんは、雪乃の契約の半年が来るまでは手を貸すと言ってくれた。
自分の気持ちに気付かせてくれた恩があるし、乗りかかった舟だからと。

けれど、香さんは、体の関係がないにしろ他の女が前島さんのアパートに出いるする事をよくは思わないだろう。

「ということで、先輩の面倒を私がみることになったわけですね」

「別に一人でも時間を潰すことはできるわよ」

会社近くの温泉施設で天ざるそばを食べながら綾ちゃんに前島さんの事情を話していた。

「実際は違うけど、康介さんは前島さんを雪乃先輩の不倫相手だと思ってるんですよね?毎週男の家へ通っている妻を、いったいどんな気持ちで見ているんでしょうね。旦那さんって変わってますよね」


「そこまで我慢しても私と別れない理由が分からないわ」

少なくとも雪乃は、当時康介が浮気していることを知らなかったから、同じベッドで眠れたのだと思う。今の夫は、全く違う意味で苦しんでいるはずだ。


「真奈美さんから慰謝料が振り込まれたの」


「そうなんですね。300万でしたっけ?凄いボーナスじゃないですか」

「真奈美さんのご主人が払ったのか夫が払ったのか聞いたわ」

「え!旦那さんが不倫相手の慰謝料を持ったんですか?」

「康介は、私が請求した300万と同じ額を、慰謝料として真奈美さんのご主人に振り込んだの。300万が互いの家を行き来したことになるわ。結果、夫が支払ったと言われればそういう事になるかもしれないわね」


「じゃぁ、先輩が弁護士費用も含めて750万をご主人から受け取った事になったんですね」

「まぁ、そうなるかな。あちらの夫婦は、旦那さんが浮気していたから、その分の慰謝料を妻である真奈美さんに支払ったみたいだし、彼らは離婚した。子共の親権は真奈美が持った。養育費は子供さんが成人するまで支払われるそうよ」

「先輩、やけに詳しいですね」


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