漆黒の貴公子と亜麻色の姫
──特別寮4階・談話室
「なあ、さっき知らない女が私の演奏を覗き見していたんだが。誰かわかるか?」
黒くて艶のある髪に、吸い込まれるような鋭くて漆黒の瞳を持つこの男、蓮池 由貴斗は問うた。
「俺が知るわけないだろ、そんな女」
ガタイが良く雄々しさを感じる、髪に青いメッシュを入れた男、神浦 仁が答える。
すると男性にしては線が細く、肩より長い髪を後ろで編み込みにしている御厨 天寧が、こちらへやってきた。
「それは興味深いですね、由貴斗さんが演奏中に誰かの気配に気づくなんて。誰でしょうか?わたくしもお会いしてみたいものです」
「え?演奏中は誰が話しかけても全く気づかない由貴斗が、女の子に覗かれてるのに気づいたの?何それ⁈」
クオーターだからか茶髪で全体的に色素の薄い、篠宮奏音も話を聞きつけてやってきた。
「笑い事じゃない。亜麻色の髪で、そこそこ顔立ちの整った女だ。私は見たことがなかったが、リボンの色からして同じ学年だ。転校生か何かか?」
ああ、と奏音は頷く。
「その人、今日転校してきた九蘭 雅さんだよ。僕の隣の席。多分、ハーフだと思う」
「そうか、九蘭 雅、か……。明日の18時にここに呼んでおいてくれ。頼んだぞ」
由貴斗はそう告げると、自室に戻った。
残された3人は、はて、と首を傾げながらも、そのまま各々の自室に戻った。