漆黒の貴公子と亜麻色の姫
九蘭 雅……。
頭の中で繰り返す。
ピアノを弾いていて、他人のせいで演奏が途切れたことなんて一度たりともない。
生まれて初めてだった。
自分でも、なぜ彼女を目でとらえてしまったのか不思議でならなかった。
堂々と目の前に出てきて、近づいたわけでもない。
大きな音を立てたわけでもない。
ただ一つ言えることは。
「──私の音楽が、私の音楽でなくなってしまう」
漠然とした不安が襲い掛かる。
得体の知れない何かが、私を浸食しようとしているのだ。
「彼女を、消すべきだ」
本能がそう言っているような気がする。
考えすぎて重くなった頭を振り払うように、私は眠りについた。