極道の推し活、始めました。〜クールな若頭は童顔女子大生を寵愛して離さない〜
「中途半端な優しさは、結局誰も救えないだろうから。心を鬼にして私のことを引き渡そうと決めた麗奈さんの選択は…間違ってないと思います」
「…………」
「私はあなたに言われたからあの車に乗るわけじゃない。自分の意思で、乗ろうと決めたから乗るだけです。だからこの先何があっても貴方が余計な罪悪感を抱くことはないです」
元はと言えば、私があの変な落し物を拾ったことがきっかけでこんなにややこしい話しになってしまっただけで─…
あの日、何も拾うことなく少しでもタイミングがズレていれば……変質者に遭遇することも、その後仁睦さんに助けられることも無かったはずだ。
そうなれば…麗奈さんだってこんな辛い選択をしなくて済んだだろうに。
無駄な正義感や善意のようなものが働いて拾ってしまったソレのせいで、多くの人を巻き込んでしまった。落とし主が拾った私のことを探していると言うなら…会いに行くのは別に間違ったことでは無い。
「”間違っても絶望なんてするな”、って…仁睦さんに伝えてもらっていいですか?これは私の本当の兄が遺した言葉なんですけど、仁睦さんにも知っていて欲しいから…」
「……やっぱり、私…間違っ、」
「案外、ちゃんと話し合えば夕方には帰れるかもしれないんで…その時は一緒にお好み焼き、食べに行きましょう。同じ粉物なら私はパンケーキじゃなくて、お好み焼きが食べたいです」
間違ったことをした、後悔している…彼女の潤んだ瞳からそんな思いがヒシヒシと伝わってきたので、背を向けて黒塗りのセダンに自ら飛び乗った
──…何も、悪いことをした訳じゃない。
だから堂々としていればいいんだって、自分に言い聞かせるようにして飛び乗ったものの…乗り込んですぐに膝元に鋭利な刃物を押し当てられたことにより、これまで生きてきた常識なんてものが通用しない世界は本当にすぐ側にあったのだと、身をもって思い知ることになった。