極道の推し活、始めました。


どれくらい御屋敷の中を歩いたのか、担がれていて視界がユラユラと揺れるので全く距離感のようなものは把握出来なかった。



やがてバンッ…と襖を勢いよく開けた仁睦さんが、私の身体を床に放り投げた。和室で畳が敷かれているとはいえ、これは普通に痛い。




「この部屋から出たら…分かってるよな?少しでも長く生きたいなら、そこから一歩も動くんじゃねぇぞ」




何度も首を縦に振って頷いた私を見て、もう何度目か分からない舌打ちを披露してくれた仁睦さん。改めて全身を拝むことが出来たけど…スーツ姿、かっこよ。会社員…なわけないよね、首に見えるほどの刺青が入っていたし。




いやね、本当は何となく勘づいている。黒い塊がスーツの内ポケットから出された時から、普通の人じゃないんだろうなって、なんとなく理解した。それなら日本庭園付きの古風なこの御屋敷に足を踏み入れるなと言われたことに納得がいく。





 ──わたし、本当にコロされるんだ。




不思議と、恐怖のようなものは感じなかった。人はいつか最期の時を迎えるだろうし、私もいつか年老いて家族の顔も分からなくなった頃にそれを迎えると思っていたけど…意識がしっかりあるうちに、あんなイケメンにBANされるならそれはそれでいい終わり方では?なんて思えてくる。




私という人間はそんなしょーもない人間だ。




この世にしがみついて必死で生きたいと願うほどに…生きるということに対して欲がない。もしも今、活火山が大噴火して日本が沈没したとしても"自然現象なら仕方ない"と割り切れるだろうし、無事に明日を迎えられないとしても…泣いて縋るようなことはしないだろう。




せっかくなら─…推しと一緒に最期の夜を過ごしたいな。




人生の終わり間際に出会った、人生を掛けてもいいと思えるほどの推し彼。どうせ最期になるなら、デキることは経験してから逝きたい。







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