呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 自信に満ちあふれたその表情は、まぶしすぎて直視しづらい。

 ならばと視線を落としたら、今度は薄いシャツごしでもはっきりとわかる男らしい胸板が視界に飛び込んでくる。

 人妻とはいえ純潔のハンナには刺激が強すぎた。

 あまりにも麗しすぎて……あのエリオットと同一人物とは、にわかには信じがたい。

「――ハンナ」

 彼の瞳がハンナを射貫く。
 
(あぁ、でもこのサファイアの瞳。これだけは変わっていませんわ)

 彼はいつも、美しい瞳をまっすぐに自分に向けてくれていた。

 現在の彼とかつての少年が、ハンナのなかでぴたりと重なる。

 と同時に、ハンナはハッと我に返り、慌てて彼の身体を押し返した。

「――エ、エリオット殿下! なんてことを! 大国オスワルトの王子殿下が、私のような身分の女を抱き締めたりしてはいけません」

 衝撃の事実が続くあまり、このありえない状況に気がつくのが遅れてしまった。慎み深く、礼儀正しいのが美点と評されてきたハンナにはあるまじき失態だ。

 だが、どれだけ強い力で押し返そうとしても、すっかり大人になってしまった彼の身体はピクリともしない。

「で、殿下。どうかお願いです……私は人妻です。今すぐこの腕を……」

 自分などとの醜聞で、エリオットに不名誉を与えるわけにはいかない。

 泣き出しそうな顔になるハンナにエリオットは甘く、不敵に笑む。
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