呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットは軽く流したけれど、ハンナの目には彼の頬がいつもより青白いように見えて、かすかな胸騒ぎがした。

 とある日の昼下がり。

 ディーン公国の大使との食事会から私室に戻ってきたハンナは、続き間になっている衣装室で重い重いドレスを脱いだ。

 ウエスト周りをキュウキュウに締めつけているコルセットからも一刻も早く解放されたいところ。

 しかし、これはひとりで着脱できる代物ではない。ジュエリーを片づけに行ったナーヤが戻ってくるのを待つしかなかった。

(でも、今なら……もしかしたら)

 ハンナは人さし指を天に向けて、そこに意識を集中させる。

 魔法の基本は、イメージを構築することにある。想像が鮮明であればあるほど、魔法の精度も高くなる。

 十五年の眠りから覚めた直後はすっかり鈍っていたハンナの魔法だが――。

 コルセットを脱いだ自分を想像した途端に、複雑に締めあげられていた紐が一瞬でしゅるんとほどけ、ハンナのおなかを解放した。

 予想以上にうまくいったことに、自分でも驚く。
 
 以前のハンナの生活魔法は決してレベルが高いとはいえなかった。

 今のを例にすれば、自分の指がコルセットの紐にかかるシーンを想像する。続いてその指先が紐を引くところを……といった感じに、一動作ずつイメージしないと進まなかった。

 正直、リアルに手を動かしたほうがずっと早い。
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