呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 声の出所はエリーなのか、それとも別の場所か。

 ハンナがキョロキョロと首を動かすと、エリーはまたバサリと飛び立ってしまった。

「あっ、待って」

 手を伸ばしたが、間に合わない。

 青い空に吸いこまれていくエリーの虹色の羽を、ハンナは魅入られたように見つめていた。

 ある夜、ハンナは夫婦の寝室でエリオットを待っていた。

 ナーヤが届けてくれた例の薬湯を彼に飲んでもらおうと、ポットにお湯を用意してあったのだが……すっかり冷めきってしまった。

(やっぱり、なにかあったのかしら)

 夕刻から王宮が妙に騒がしかったことは、ハンナも感じ取っていた。

 エリオットは少数の重臣と近衛軍の指揮官とともに、王の執務室にこもってしまい、そのまま一度も出てきていない様子だ。

 夕食を食べる余裕もないほどの一大事ということなのだろう。

 夜も更けた頃、エリオットがようやく顔を見せてくれた。

「すまない。待っていてくれたんだな」
「もちろんです」

 彼はハンナに笑いかけたけれど、その表情には疲れが色濃くにじんでいた。

 最近は調子がよさそうだったのに、今夜はまたコホコホと乾いた咳をしている。

「ナーヤの薬湯が届いていますよ。今、準備しますね」

 ハンナは自身の手に神経を集中させて、ポットに触れる。すると、頭のなかでイメージしたとおりにポットのお水がコポコポと沸き立った。
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