呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
七 嘘と秘密
七 嘘と秘密


 それから数日後。
 
 夫婦のベッドのなかで、エリオットは夜着姿の愛妻の背をギュッと強く抱き締める。

「五日もハンナに会えないなんて……気が狂いそうだ」

 エリオットは明朝、シーレン地方に発つ予定になっている。

 ハンナの素肌に触れ、愛をささやくことのできない日々など、エリオットには死も同然。

 深いため息を落とすエリオットを軽く振り返り、ハンナはクスクスと笑う。

「たった数日じゃないですか。そんな今生の別れみたいな顔、しないでください」
「そうだな。けど、君の過ごす時間は一瞬だって逃したくないんだよ。やっと、やっと、こうして愛し合えるようになったから。この先、百年続いたって私には足りないくらいだ」

 柔らかなブルネットの髪を払い、薔薇色に染まる頬に口づける。嬉しそうに口元をほころばせる彼女の表情に愛おしさがつのる。

「愛しているよ。おやすみ、ハンナ」

 羽布団を引っ張ってハンナの肩を隠してやる。すると、彼女は瞳を閉じながらクスリと笑った。

「ふふ。エリオットさまは昔とちっとも変わらないですね。まっすぐで、お優しい」

 ツキンと、細い針で胸を刺されたような心地がした。
 
 あっという間に夢の世界に落ちていった彼女を残して、エリオットはそっと寝室を出る。

 明日は早いのだが、妙に目が冴えていて眠れそうにない。

 少し酒でも入れようかと、自身の書斎に向かった。
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