呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 椅子をデスクではなく窓のほうにくるりと回して、夜空を見あげる。

 今宵は新月。どこまでも闇の続く、暗い夜だった。

(まっすぐで優しい、かぁ)

 先ほどのハンナの言葉を思い出し、エリオットは自嘲する。

(人間はみな……多かれ少なかれ秘密を抱えているもの。フューリー兄上もそうかもしれないし、私自身もだ)

 ハンナは知らない。エリオットは彼女が思っているような優しい人間ではない。

(君にたくさんの嘘を、ついているしね)

 たとえば、彼女と白い結婚をしていたジョアン・シュミット伯爵。

 ハンナには急病だったと説明したが、そんなのは真っ赤な嘘だ。彼の死因は病死ではない。

 もっともっと、むごたらしく苦しんだすえにあの男は死んだ。

 愛人であったリリアナは本来の居場所であった娼館に逆戻り。

(いや、もとは高級娼婦だったんだっけ。ならば、今の住処は地獄かもなぁ)

 といっても、このふたりに関して良心が痛むことなど一切ない。

 エリオットの女神に、あのような仕打ちをしたのだから当然の報いだ。

 対して、三人の兄たちには素直に申し訳ないと思っている。

 正妃の産んだ、非の打ちどころのない完璧な王子たち。誰が王になっても、きっとエリオット以上の名君になったことだろう。
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