呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 長い眠りから目覚めて、一夜が明けた。

 自分が十五年も眠っていたという話はどうにも信じがたいが、真実のようだ。

 十五年ぶんの年を重ねていたのは、エリオットだけではなかった。ハンナが目覚めたと聞いて、ゆうべ王宮まで駆けつけてくれた両親も十五年の時を経た姿をしていた。

 二十二歳の姿のまま、ちっとも年を取っていないのは自分だけ。

「おはよう、ハンナ。体調はどう?」

 ノックの音に続いて、開いた扉からエリオットが顔を出す。

「おはようございます、殿下……ではなく陛下。身体はなんの問題もありません」

 頭のほうはまだこの状況についていけていないけれど、身体はすこぶる元気だった。だがエリオットは、昨日からずっとハンナを病人扱いして甲斐甲斐しく世話を焼く。

 今も、自ら朝食を運んできてくれたようだ。彼は優しくほほ笑み、ハンナの横たわるベッドに浅く腰かけた。

 彼はハンナを見て、うっとりと目を細める。かと思えば、今度は髪やら頬やらを愛おしげに撫で回す。

「君はなんて綺麗なんだろう。絹糸のような髪、新雪のような肌、この美貌を褒めたたえ、ひれ伏す権利を私だけのものにしたいな」

 まるで美の女神に捧げるような台詞を、彼は平凡を絵に描いたような女である自分に贈る。

「殿、陛下。そのようなお言葉は私なんかにむやみやたらと贈っては……」

 殿下と呼んでいたあの頃ですら身分が違いすぎたのに。

 今やエリオットはオスワルト国王になったらしいのだ。自分などを気軽に褒めてはいけない。ハンナはそう諭すが、エリオットは不思議そうに首をひねる。

「君が教えてくれたんじゃないか。素直な気持ち、愛する心は、伝えることを惜しんではいけないと。私はハンナの教えを実践しているだけだよ?」
「えっと、たしかに、そんな話はしましたが……」
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