呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 何者なのかさっぱりわからないけれど、エリオットは彼が嫌いではなかった。

 どこまでも自由で……もし生まれ変わったらクロになりたい。そう思うほどに。

 生きる理由もないが、あえて死ぬ理由もない。ただなんとなく、エリオットは日々を過ごしていた。

 誰からも顧みられることのない朽ち果てた離宮で、透明人間みたいに。

 そんな自分のもとに、初めて〝誰か〟がやってきたのは、十五歳のときだった。

 まぶしいほどに、きらめく光。

「エリオット殿下」 

 自分を殿下と呼んだのは、彼女が初めてではないだろうか。

 エリオットという名前すら、あまりにも耳にしないので忘れかけていたくらいだったのに。

「殿下の好きなスコーンを焼いてきましたよ。一緒に食べましょう」

 自分の好みなど、気にかけてくれたのは彼女だけ。いや、誰かとともに食事をするのすら初めてだった。

「殿下はいつかこの国の王になるかもしれないお方です」

 魔法も使えない自分が王になるなど……誰もが笑い飛ばすような話を、ハンナは真剣な顔で語る。

 無色無音だった世界にハンナが命を吹き込んだ。

 空の青さ、森の緑は色濃いこと、大地の匂い。優しい風が吹き、鳥のさえずりが聞こえ……世界とはこんなにも鮮やかで美しいものだったのかと、エリオットはひどく驚いた。
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