呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 地を這うように恐ろしげなエリオットの声音に、彼は背筋を震わせた。泣きそうな顔で返事をする。

「は、話します! 話しますから~」

 魔術師はゴクリと喉を鳴らし、小さな声で告げる。

「百年。彼女にかけた呪詛は……百年の眠りを与えるものです」

 ハンナは百年の眠りについた。

 その事実はエリオットを絶望の淵に叩き落とした。

 十年でも、二十年でも待つ覚悟はあった。しかし――。

「百年……ハンナが目覚める頃には俺は……」

 六大精霊使いといっても、不老不死にはなれない。たとえ百年後でも、ハンナの命の火が消えていないことには安堵する。

 だが、エリオットと彼女は…二度と言葉を交わすことはできないのだ。

 ハラハラとエリオットの頬を涙が伝った。

 エリオットが泣いたのは、これで二度目だ。一度目は二年前、ハンナがナパエイラに旅立ってしまった日の夜。

 エリオットの感情を動かすのはハンナだけだ。

 彼女のいない人生など、世界など、自分には必要ない。

「クロ」

 エリオットは思いつめた顔でハーディーラに向き直る。

「頼みがあるんだ」

 そして、自分の計画を彼に語って聞かせる。

 エリオットの話を聞いた彼は「馬鹿か?」と言いたげに眉根を寄せた。

「俺にとっては馬鹿じゃないんだ。それに、クロにとっても悪い話じゃないだろう? 俺の寿命が縮めば、そのぶんだけ君は早く自由になれる」
< 131 / 187 >

この作品をシェア

pagetop