呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 魔法は不可逆なもの。ハンナにかけられた呪詛を解いたり、かけ直したりすることはできない。

 だが、呪詛ではない、まったく別の形態の魔法で解決することは不可能ではないはずだとエリオットは考えた。

「俺の寿命の大半を差し出してもいい。どうにか、ハンナの眠る時間を短くできないか?」

 ハーディーラは闇魔法の精霊。禁忌とされる、人の命を対価とする魔法は得意分野だ。

「できぬことはない。だが、一度かけてしまったら……取り消せないぞ」
「ハンナのいない数十年より、彼女と過ごす一日のほうが数万倍、俺にとっては価値がある。一日でも、ハンナとの時間を残してくれるのなら絶対に後悔などしない」
「アホだな」

 小さく肩をすくめる彼にエリオットは告げる。

「使役主として命じる。俺の命を対価として、ハンナの眠る時間をできるだけ短くしろ」

 スウゥと風の流れる音がして、ハーディーラが薄闇を連れてくる。

 眠るハンナと、エリオットの身体は黒い煙に包まれ、ゆうらりと宙に浮く。

 エリオットは自身の生命力がハンナの流れ込んでいくのを感じ、満足そうに目を細めた。

 これは、大陸でも最高峰の闇魔法。

 しかし、百年の眠りの呪詛はなかなかに重く……エリオットの寿命をギリギリまで使っても、十五年に縮めるのが精いっぱいだった。
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