呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
八 ありがとう、さようなら
八 ありがとう、さようなら


「はい、あーんして」
「その、エリオットさま。ドライフルーツくらい、ひとりで食べられますから」
「知ってる。でも私は、ハンナにこうやって食べてほしいんだ」

 椅子に座ったエリオットに横抱きにされた状態で、ハンナはがっちりとホールドされていた。

(優美な外見に似合わず、力はお強いんですよね。ピクリともしない)

 彼がくわえている干しなつめがハンナの口元に近づく。

 口移しでそれを食べさせてくれたかと思えば、エリオットはそのまま唇を重ねてきた。

 甘いなつめ、狂おしいほどに甘いキス。頭がぽわんとして、お馬鹿になってしまいそうだ。

(も、もうっ。本当はこんなことしている場合ではないのに)

『やはり……反乱の動きがあった』

 数日前、シーレン地方から帰ってきたエリオットは硬い声でそう告げて、それからずっと怒涛のような忙しさに追われていた。

 反乱の証拠をつかみ、万が一に備えて鎮圧の準備を整える。王としてすべきことは山のようにあるのだろう。

 それはハンナも同じだ。もし戦になればエリオットは長期で王都を不在にする可能性が出てくる。

 その間、国王代理を務めることができるのは王妃であるハンナだけ。今のうちに彼に確認しておくこと、ハンナ自身で学んでおくべきこと、時間はいくらあっても足りないくらい。

 だから、この昼さがりのティータイムはふたりにとって久しぶりの夫婦の時間だった。

 束の間の安らぎのとき。ついばむようなキスを繰り返し、クスクスと笑い合う。

 だが、そんなささやかな幸せにも無粋な邪魔が入った。

「陛下、王妃さま! 至急のご報告がっ」

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